◆【エネファーム最前線2024】(1)補助金の増額が後押しに/主要ガス会社の販売計画一覧
家庭用燃料電池「エネファーム」が発売されてから15年目を迎える。今年は国の補助金が昨年の15万円から20万円(エネファームミニは18万円)に増額され、リプレイスの山場を迎える事業者にとって販売の大きな後押しとなろう。建築物省エネ法改正に伴う住宅の省エネ基準適合義務化やZEH(ネットゼロエネルギー住宅)志向も、省エネ機器の中で1次エネルギー消費量の削減率が最も高いエネファーム導入の追い風となる。主要都市ガス17社の販売計画と普及団体の支援策、3電池住宅や環境価値のJクレジット化、メーカーの最新動向、LPガス元売り3社の販売方針等を紹介する。
<太陽光PPA参入相次ぐ、Jクレ化検討事業者も増加>
ガスエネルギー新聞が主要都市ガス17社に対し行ったエネファームの販売計画に関するアンケートによると、2023年度の販売見通しは非公表の京葉ガスを除く16社合計で3万9367台と22年度実績(3万6982台)を6・4%上回った。24年度は計画非公表の東邦、京葉、広島ガスを除く14社合計で3万5277台と、23年度14社合計の3万6321台に比べ2・8%減。新型コロナに端を発した給湯器の納期遅延があった21年度の16社合計3万5753台を若干上回るものの、20年度の4万2893台には届かない見通しだ。
低空飛行を続ける要因は3点ある。建材・人件費高騰による住宅建設コストの上昇、部材高騰を受けて22~23年に行われたエネファームの値上げ、そして22年の燃料費高騰に伴うランニングコストメリットの低減だ。事業者からは「大手ハウスメーカーは建築費高騰による住宅価格の上昇を抑えるため設備予算を削る傾向があり販売台数は減少。特に建売分譲ではエコジョーズやハイブリッド給湯器にシフト」(山口合同)、「エネファーム仕入れ価格が値上がりしていることやガス料金の高騰によるランニングメリット低減もあり、成約につながらないことが多々あった」(西部)などの声が聞かれる。
●24年度は9社が増加
23年度に対し、24年度に販売増を見込む事業者は9社。仙台市は23年度170台を24年度245台に、北海道は117台から144台に増やす。仙台市はリプレイス、北海道はエネファーム+太陽光PPA「W発電ソーラーサービス」が好調。四国は単年度過去最高の470台から610台へ大幅増の計画。好調なリースに加え、太陽光第三者所有モデルをエネファームとセットで展開、多数の地場工務店が採用に動いたという。
静岡は22年390台から昨年519台と伸ばし、今年は653台を目指す。エネファーム+太陽光PPA「ソラーレ」は地場工務店18社113件の成約実績だ。千葉県産ガスの安さを前面に23年239台と過去最高を記録した大多喜も268台へ積み増す。既築向け太陽光リース「エネ日和」を昨秋開始、3電池提案も進める。山口合同、東部、岡山、北陸も増加を見込む。
逆に減少を見込むのは東京、西部、サーラ、武州の4社。特に西部の落ち込みが目立つ。22年度1713台から23年度1423台、24年度は920台と35%減を計画する。
●補助金はリプレイス
補助金はどの事業者も積極活用している。「昨年、エネリアで販売した全数で活用」(静岡)、「既築の9割超が活用。顧客と販売店の直接契約のため訴求しやすい」(広島)、「昨年度は既築69件で利用。今年度も広告掲載を続け販促につなげる」(四国)など販売店のほか、「自社に加え、ビルダーへ経年エコウィルやエネファームのリプレイスに活用を促す」(山口合同)、「新築では昨年うまく使えなかったが、今年は資機材高騰の中でコスト低減策として活用したい」(東部)との回答もあった。
リプレイスで目を引くのが、22年度から「経年リプレイス目標」を設定する北陸だ。22年度は当初計画を57台上回る451台と単年度最高を記録、23年度も当初の333台に対し422台で着地。24年度は同目標を123台とし、着実にリプレイスを進める。
●太陽光と蓄電池
ZEH化や光熱費の低減志向を背景に、太陽光PPA(電気購入契約)サービスに取り組む事業者が増えている。大阪ガスの「スマイルーフ」は昨年3月の約300件から1年間で1500件超へ増加。昨年2月に開始した「東邦ガスくらしのでんち」は既築向けの太陽光PPA+蓄電池リース。武州も昨年4月に「bソーラー」を始めた。長州産業と組む「サーラのゼロソーラー」は昨年度約200件の申し込みを得た。電力契約を結ばない類似サービス「西部ガスソーラー」は7社と業務提携。同じく同様のスキームを展開する東部は「採用事例は3社。都市ガスエリア内限定やエネファーム縛りにハウスメーカーから難色を示されている」と回答している。
タイプSを扱う事業者にとって朗報なのが蓄電池との平常時連携だ。大阪ガスが採用する京セラ製が住友電工ブランドで売り出される。サーラは「価格を含め商談中」、大多喜も「採用検討中」、西部は「検討したい」と回答した。京セラの新エネレッツァは停電時の連携が可能となる見通し。
昨年4月発売のパナソニックのバックボイラーなし大容量貯湯タンクのエネファームは静岡と山口合同、四国の3社が採用していると答えた。
エネファームの環境価値のJクレジット化については、東京、大阪、静岡、北陸の4社が取り組みを検討中と回答。静岡は「実施に向けて検討中」、東部は「調査中」、仙台市は「情報収集中」とする一方、西部は「検討したが現時点では取り組んでいない。Jクレの活用方法が明確になれば可能性はある」とした。
なお、年度計画は各社の決算期に基づき記載している。
<エネファームの販売実績・計画と営業施策>
※SO=SOFC/PE=PEFC/EF=エネファーム/EW=エコウィル
ガス事業者/22年度実績/23・24年度計画/販売施策(新築・既築)、補助金の活用策など/余剰買取や太陽光PPA・リースほか/採用マンション
●東京ガス/約9000台/23年度は約1万1000台。24年度は1万台の計画。23年12月に累計17万台。/新既築とも顧客のエネルギー利用形態に合わせ3種類のEFを提案。リプレイスは家族構成等の変化に対応。国の補助金はHPや専用チラシで周知。重複申請可能な東京都の補助金も活用/都の太陽光設置義務化等を受け、ずっともソーラーは大手ハウスメーカー中心に提携拡大。太陽光+EFリースも展開。Jクレも検討中。/64物件約8900台(25年完成予定の2物件加えると1万3665台)
●大阪ガス/約2万台/23年度は約2万1000台(新築約9000、既築約1万1000)の見通し。24年度は約2.1万台計画。23年10月に19万台達成。/給湯省エネやこどもエコ等の補助金を活用。新築はZEHを切り口に省エネ性の訴求や太陽光とのセット販売を継続。既築は経年EW・EFからの交換や蓄電池など他商材とのセット販売を提案。/SO余剰買取は24年1月で約8.2万件。22年4月開始の太陽光PPAスマイルーフは新築中心に24年3月までに1500件超獲得見込み。/162物件約1万3000台(着工ベース24年3月末累計見込み)
●東邦ガス/約3400台/23年度は2700台超の見通し。22年度までで累計3万4000台超。/両市場とも補助金を活用し、省エネ性やレジリエンス機能訴求。既築はガス展でキャンペーン実施。/エンド向け太陽光PPA+蓄電池リース「東邦ガスくらしのでんち」を昨年10月開始。サブユーザー向け検討中/24年3月までに850戸超
●静岡ガス/約390台/23年は519台(新築274、既築245)。23年までに累計約5500台。24年は653台(372、281)を計画。/新築はEFとソラーレ(太陽光PPA)のセット提案と地場工務店のZEH促進支援に注力。既築は無金利プランや機器下取りに加え、補助金を活用し給湯器・EW・EFの更新、後付け設置に注力。12年超経過したEW、EFの更新も引き続き注力。/SO買取は23年末約380件。卒FITは22年末約260件。電気契約者なら無料の故障診断サービスが人気。Jクレは実施に向け検討。/1物件2棟190戸
●大多喜ガス/144台/23年は239台(新築111、既築128)と過去最高、24年は268台(140、128)の計画。23年12月までに1312台販売。/新築は千葉県産ガスの廉価安定性をアピールし、エネファーム発電による光熱費削減メリットを勉強会等で訴求。既築の新規はマーケティングで対象を絞り効果的なDM・キャンペーンを打ち、光熱費シミュレーションを実施。リプレイス営業も継続。/一般住宅向け太陽光リース「エネ日和」を昨秋開始。3電池連携の体感デモ設備を昨年12月ショールームに設け、既築へセット提案も。/なし
●西部ガス/1713台/23年度は1423台(新築835、既築588)の見通し。24年度は920台(495、425)計画。22年度までの累計2万180台。/新築はZEH研修を通じ、戸建・集合ともに建築物の省エネ基準クリア対策としてEFを訴求。既築はEW・EF更新に加え補助金や早期予約キャンペーンを活用。/卒FITは大阪ガスの代理。太陽光PPAと類似スキームの「西部ガスソーラー」は7社と提携。蓄電池の扱い検討中。/39棟1871戸
●京葉ガス/ー/非公表。SOは16年1月から取り扱い開始。販売比率はPE1:SO3程度。/新築・既築とも省エネ性、環境性、レジリエンス性に加え、住宅省エネCP対象機器であることをPR。新築はハウスメーカー中心にZEHを意識した提案。既築は経年EW・EFの更新に重点。/卒FITは買取単価高く好評。22年1月開始の「そらサポ」はエンド・サブユーザー、行政から好評。/2棟35戸
●北海道ガス/88台(新築85、既築3)/23年度は約117台(新築約115、既築約2)、24年度は144台(129、15)目標。22年度までで約1200台。/新築は省エネ基準引き上げによるZEH推進に伴い、1次エネ消費削減に寄与する点を強調し、提案対象を新規ハウスメーカーにも拡大。既築リプレイスは保証期間満了の2年前から提案開始。/22年10月開始の「W発電ソーラーサービス」は16社と提携。卒FIT太陽光の契約数は2月末で2205件。/マンション用PEがない
●広島ガス/383台(新築154、既築229)/23年度は346台(新築156、既築190)の見通し。22年度までで累計3931台設置。/昨年4月開始のJクレ契約者数は1月末で237件。既築は22年10月から家電量販によるEF販売を開始、発電ユニットの分離販売を促進するチラシも。補助金は既存客の9割超が活用。/SO買取1月末738件。電気登録で昨年2月以降は自社で活用。長州産の太陽光PPAソラトモは4社採用。/14物件422戸
●北陸ガス/451台/23年度は422台(新築304、既築118)、24年度は431台(289、142)を計画。22年度までに3516台販売。/新築は住宅省エネ性能向上を受け、サブユーザーに省エネ商材としてPR。既築は経年リプレイス目標を24年度123台に定め、営業部門の直営社員が対面で提案。補助金を販促策として活用。/EF+太陽光リースは扱いあり。太陽光や蓄電池の需要増を受け、市場動向を注視しつつ新サービスを検討。/マンション用PEがない
●サーラエナジー/347台/23年度(22年12月~23年11月)は約440台、24年度は約400台を計画。/Jクレサービス本格運用開始。その他、新築はハウスメーカー向け勉強会と床暖・浴暖・EFパック提案、既築は無金利クレジット、エコスマ診断活用、グリーンリフォーム提案、リプレイス提案。/SO買取は23年度までに約150件。卒FITは320件。長州産業と展開するゼロソーラーは23年度約200件。/2物件129戸
●山口合同ガス/208台/23年209台(新築89、既築120)。24年は250台(130、120)計画。23年までに2388台販売。/新築は建築費高騰で苦戦。分譲住宅への導入を目指しZEH視点で省エネ性訴求。既築は補助金を活用したリプレイスに注力。大手HMリフォームに同促進説明会実施、マンションも早めに提案。/計画はない/7物件254戸
●東部ガス/170台/23年157台(新築85、既築72)、24年191台(116、75)を計画。22年までに累計2070台(1540、530)。/新築は省エネ基準義務化やZEH対応における優位性訴求。創エネできる給湯器としての価値やランコスもPRし、ターゲット拡大を目指す。既築は補助金活用しリプレイスに注力。レジリエンスPRも。/卒FITは関東は東京ガスの代理店。新築EF導入宅への太陽光無償設置はLPエリアで展開できず3社どまり。/1物件273戸
●武州ガス/61台/23年度93台(新築29、既築64)、24年度85台(25、60)計画。22年度までに644台。22年4月からSO販売。/新築はHMごとにCP価格を適時実施。既築は光熱費削減とレジリエンス機能、補助金をアピールし、接点機会に積極的提案。既築のSO販売比率は4割。/23年4月から太陽光PPA「bソーラー」開始。既築に3電池の提案も。/なし
●仙台市ガス局/126台/23年度は170台、24年度は245台の計画。22年度までに1571台。18年4月からSO採用。/新・既築ともレジリエンス機能をアピール。新築はガスのある暮らしとZEHを切り口にPR。既築は販売店と連携し、EW・EFの更新需要を取り込む。23年度からリプレイス増加。/Jクレ化については情報収集・検討中/1物件9戸
●四国ガス/456台/23年度470台(新築258、既築212)、24年度610台(290、320)の計画。22年度までに2662台販売。/22年5月開始の好調なEFリースは地場工中心に継続。新既築ともエネファームパックを作成予定。新築は床暖や乾太くんを組み入れ予定。/23年夏から太陽光第三者所有モデルをEFの導入とセットで展開し、地場工から採用多数/1物件32戸
●岡山ガス/45台/23年62台(新築25、既築37)、24年80台(40、40)を計画。23年までに1136台販売。/新築HMへは資料を統一化しランコスとレジリエンス、地場工には省エネ法改正の対応を切り口にPR。既築はHM10年点検時同行を続け、補助金活用でリプレイス提案。新規客向けにもチラシ送付。/24年1月電力小売登録。地場工や既築住宅向けにEFや蓄電池と組み合わせた太陽光の提案方法を考案中。/なし
<累計50万台突破、研修や販促ツールを用意/普及支援団体>
コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)燃料電池室によると、今年2月末までのエネファーム普及台数はメーカー出荷ベースで51万1042台だった。今年度11カ月分の実績は3万669台(都市ガス2万8134台、LPガス2535台)と前年同期の3万9976台に比べ23・2%減。建材価格の高騰を背景に新築住宅着工数が減少、建築事業者が高額な住宅設備の採用を抑える動きも響いた。昨年4月のエネファーム価格値上げで前月の3月に駆け込みが起き、今年度分が先食いされた影響もある。
今年は1台当たりの国の補助金が、昨年比5万円増の最大20万円となる。独自に補助金を設ける自治体も多く、併用すれば大きな初期費用負担軽減につながる。そこで、FCサポートネットワーク(会員数100社)を組織する燃料電池室は、国の補助金との重複申請の可否も分かるように自治体のエネファーム補助金一覧をホームページで公開。補助金の有効活用促進へメーカーとの連携も強めている。出荷台数を定期的にとりまとめ、日本ガス協会や日本LPガス団体協議会など業界団体を通じてガス事業者への働き掛けを強化。昨年好評だった国の補助金の周知チラシも引き続き会員へ無償でデータ提供する。
営業研修では、来年度「ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)検討に役立つ省エネ計算実践研修」を追加する。今年度の「基礎編」に続く「実践編」で、省エネ計算プログラムを実際に操作しながら基準適合のポイントを学ぶ。秋ごろには「エネファーム事例発表会」を予定。成功事例の共有を通じ、エネファームの普及拡大を後押しする。
エネファームパートナーズ(165団体・事業者)は昨年1月、消費者や建築事業者、自治体等に対するエネファーム訴求ツールとして、家族構成や暮らし方の異なる8世帯の利用者の声を集めた「エネファームオーナーズボイス」の販売を開始。事業者へ活用を呼び掛けている。
◆【エネファーム最前線2024】(2)3電池住宅とJクレ活用
<2種類の蓄電池用意、約9割の購入電力を削減/大阪ガス>
大阪ガスは「電気は作って、ためて、もしもに備える」をコンセプトに、エネファームを軸に各家庭にあった創エネ・蓄エネ設備の導入を、サービスチェーンを通じて提案している。3電池「スマートエネルギーホーム」のパンフレットでは、エネファームtypeS(タイプS)+太陽光+蓄電池の購入電力カバー率を約9割、太陽光+タイプSで約8割、タイプS+蓄電池約9割、タイプSのみ約8割、太陽光のみ約4割と、レジリエンス、経済性、環境性の五つ星評価とともに一覧で分かりやすく解説している。
同社は2009年6月にエネファームの販売を開始。FIT中の太陽光の売電量を押し上げるメリットを前面に、翌年から「ダブル発電住宅」を推進し、太陽光の販売に注力した。その結果、太陽光の販売台数は累計で約3万台と関西圏でトップクラスに、エネファームの普及台数も昨年10月に19万台に達した。
蓄電池は同社が共同開発した京セラ製(住友電工が製造)の3・2㌔㍗時(希望小売価格230万4500円)と、オムロン製の6・5㌔㍗時、9・8㌔㍗時(オープン価格)の制御が異なる2機種を扱う。3電池住宅における制御の違いは、京セラ製はタイプSを定格運転させ、余剰分をためて太陽光の余剰は全量売電に回す。一方のオムロン製は主に太陽光の余剰分を蓄電する。
2種類の蓄電池を持つ背景には事業環境の変化がある。京セラ製は17年4月の発売。大阪ガスは16年4月からタイプSの余剰電力買取を始めたが、当時、太陽光とタイプSを設置し、太陽光の余剰をFITで売電している場合はタイプSの系統への逆潮流が認められず、家庭の電力負荷追従運転に限られていた。そこで、タイプSの発電能力を最大化しようと余剰分をためられる蓄電池を開発した。
オムロン製は19年4月の発売。19年11月から卒FIT太陽光の出現に伴い、大阪ガスは卒FIT太陽光の買い取りに乗り出すと同時に、太陽光の余剰電力を自宅で消費したいニーズに応じ、より容量の大きな蓄電池を用意した。また、差分計量が認められたことにより、計測器の設置で太陽光とタイプSそれぞれの余剰分の売電が可能になったため、卒FIT太陽光とタイプS双方の余剰を買い取る「ダブル売電」を開始。蓄電池が満充電になり余剰が出た分の買電も行うようになった。
●蓄電池は既築中心
蓄電池は昨年3月までに約4千台を販売。大阪ガスマーケティング経営企画部燃料電池推進チームの茂木拓斗氏は「現在、蓄電池のほとんどが既築住宅向けの販売だ。年間販売台数を単純に計算するとタイプSの約1割弱になる」という。提案手法は主に2パターンある。タイプSを単体で導入し、余剰を売電している顧客に対しては京セラ製を勧める。卒FIT太陽光の設置宅にはオムロン製を勧める。
既築市場を担当する販売企画部販売企画チームの田中裕貴氏は「ラインナップが増えれば提案の幅が広がる。蓄電池から始めてタイプSとのセットで売れる。太陽光の発電出力と電力消費量を加味して、どの蓄電池がマッチするか、個々のお客さまに合わせて提案している。支払いは月々分割払いが多い」と話す。
太陽光では、22年4月に開始したPPA(電力購入契約)サービス「スマイルーフ」が好調だ。大阪ガスが太陽光を無償設置し、太陽光で発電した自家消費分を1㌔㍗時24円で販売。FIT収入と卒FIT後の余剰電力も契約期間の15年間は同社が無償で受け取る。「自社で商流を持たない新築の工務店へのアプローチをメインに、今年3月までに1500件を超える契約を見込んでいる」(茂木氏)。
●実証の成果を生かす
蓄電池の独自制御には、大阪ガスが11年2月から積水ハウスと長年取り組んできた3電池実証の成果が生かされている。両社は奈良県北葛城郡王寺町に2LDKの戸建住宅を建設。11年4月~14年5月、16年12月~19年3月、20年4月~22年3月―の3期にわたり、大阪ガスの社員家族が居住実証を行ってきた。
第1期の最初の1年は、ダブル発電住宅として購入電力量を82%削減。次の1年は3電池を用い、約90%を削減し、国内初3電池住宅における二酸化炭素排出量実質ゼロを達成した。最後の1年は電気自動車(16㌔㍗時)を蓄電池に用い、同様の効果を上げた。
第2期は住宅をZEH(ネットゼロエネルギー住宅)相当にリノベーションし、アズビル製の全館空調を採用。蓄電池は使わず、タイプSを定格運転し、太陽光の余剰分とともに買電を行った。
第3期はZEH+(プラス)相当に改修し、14・08㌔㍗時の大容量蓄電池を使用。21年8月(夏)と翌1~2月(冬)は系統から切り離したオフグリッドの状態で、太陽光の出力変動を蓄電池の充放電とタイプSで吸収し、電力の自給自足に成功した。
需給調整市場では26年度から低圧リソースの売買が始まる見通し。3電池がパッケージとして供給力や調整力の提供主体となり得るか、同社の挑戦は続く。
<エネファームでJクレ/ガス会社、自治体が展開>
●連携スキーム・東邦ガス
国の「Jクレジット制度」を使い、エネファームの環境価値をクレジット化する動きが広がり始めた。主体となるのはエネファームを販売するガス会社と、エネファームに補助金を出す自治体だが、東邦ガスは両者が連携する新たなスキームを構築した。4月から東海3県の複数の自治体で取り組みをスタートさせる。
自治体と東邦ガスで役割を分担する。自治体がエネファーム補助金交付の際などに「くらしカーボンニュートラル(CN)クラブ」への入会を働き掛ける。入会を義務付けるかどうかは自治体の任意。パナソニック製のPEFC(固体高分子形燃料電池)とアイシン製のSOFC(固体酸化物形燃料電池)の両エネファームを対象とし、東邦ガスがエネファームの発電データの収集や二酸化炭素(CO2)削減量の算定、国へのJクレ申請・販売・管理、Jクレ収益および環境価値の配分を担う。手間と費用のかかるデータ取得や申請作業を東邦ガスが担うことで自治体の環境貢献活動を後押しする。
東邦ガスは昨年9月に、ガス会社が主体となる形でJクレ認証を得ていた。これを見直し、3月12日に再び認証取得した。その理由について、菊澤央忠CSR環境部地域共生推進グループマネジャーは「エネファームのJクレ化に興味を持つ自治体は多いが、自治体単位での取り組みでは台数が限定的でメリットが出にくいため、なかなか実行に移せない。こういった声を受けて衣替えした」と話す。
東邦ガスは申請で得たJクレをそのままの形で自治体に渡すか、要望によっては自治体に立地する企業へ売却し、その収益を戻す。「温対法改正により、Jクレで都市ガス排出係数の調整が可能となった。自治体の要望に応じ、企業へのJクレ売却という流通面でもお手伝いする」と説明する。
同社の営業エリアでエネファームに補助金を出している自治体は、既に自らJクレ申請を行っている愛知県豊田市と刈谷市を除き、愛知県36、岐阜県5、三重県3の計44ある。「愛知県は県が配布した交付金に市町村が上乗せする形でほぼ全てが取り組んでいるが、補助金のない自治体にも新たなスキームを紹介していきたい」という。同社は22年11月の愛知県岡崎市を皮切りに、安城市、三好市、知立市、幸田町、三重県桑名市、岐阜県羽鳥市、今年2月の名古屋市まで8市町と包括連携を締結しており、ここも有望なターゲットとなりそうだ。
Jクレ申請のベースとなる、エネファームの年間累計発電電力量データは、サンプリング方式で無作為に抽出。SOFCのネット接続機およびLPWA(低消費広域無線通信)での情報取得が可能なPEFCはメーカーのサーバーから遠隔で取得し、この方法が不可能な機器に関しては訪問するなどして情報を収集する。
初年度の2024年度は50台からスタートする計画で国へ申請。その後、毎年500台積み上げ、31年度には累計3550台、3402㌧のCO2削減を見込む。「今回のスキームに対する自治体の評価は高く、初年度100台弱はいけそう。当社は創出したJクレの一部を事務手数料として受け取るが、一連の作業にかかる固定費は台数が増えてもそれほど変わらないため、多くの自治体を巻き込み、毎年申請していきたい」と菊澤マネジャーは意気込む。
●ガス会社・4社に拡大
ガス会社が主体となる場合は利用者にポイントや商品券などで還元するケースが多い。昨年4月に広島ガスがスタートしたのを皮切りに、サーラエナジー、大分ガス、日本海ガスも取り組み始めた。日本海ガスは昨年12月7日にプロジェクト登録。登録日より2年さかのぼって21年12月7日以降に設置した都市ガス・LPガス仕様のパナソニックとアイシンの2機種を対象とする。利用者に対し、「Green&SmileClub」とウェブ会員サイト「PregoClub(プレーゴクラブ)」の入会を求め、環境価値を譲り受ける対価としてプレーゴポイントを毎年千ポイント還元する。LPWAやネットでつながる機器はメーカーサーバーから遠隔で年間発電電力量データを収集し、それ以外はリモコンで確認。初年度150台から毎年100台増やし、30年度には850台、750㌧のCO2削減を見込む。
●自治体・2県5市
自治体では神戸市が日本で初めて13年度に、札幌市が19年度に開始した。アイシンのSOFCがネット接続され、年間発電電力量データを取得できる仕組みを使い、愛知県豊田市が21年6月から開始。22年12月には滋賀県、23年2月には千葉県茂原市、同年11月からは愛媛県、今年1月からは愛知県刈谷市でも取り組みが始まった。
自治体は補助金交付の代わりに環境価値を譲り受け、クレジットを環境保全活動や地元企業に売却することで、環境価値の地域循環を目指す。豊田市と刈谷市はアイシン、茂原市は大多喜ガス、愛媛県は四国ガスの協力を得るなど、エネファームメーカーやガス会社との連携も増えている。
<国の補助金20万円へ>
経済産業省、環境省、国土交通省は家庭部門の省エネ強化に向け、2023年度2次補正予算に総額4215億円を計上し、(1)子育てエコホーム支援(国交省、2100億円)(2)先進的窓リノベ(環境省、1350億円)(3)給湯省エネ(経産省、580億円)(4)賃貸集合給湯省エネ(経産省、185億円)―に取り組む。4事業の総称を「住宅省エネ2024キャンペーン」とし、一体運用している。
エネファームの補助額は1台当たり20万円(ミニ18万円)と昨年より5万円増額。給湯器へ後付けするタイプや大容量貯湯タンクモデルも対象となる。新たに電気温水器の撤去を伴うと5万円、蓄熱暖房機には10万円が加算される。自治体の補助金も国の財源を使っていなければ重複申請可能。(3)の補助を得ると(1)の既築向け申請金額の下限が5万円から2万円に下がり、リフォームを後押しする。
(1)では、子育て世帯や若者夫婦世帯の長期優良住宅の新築・購入に最大100万円、ZEH(ネットゼロエネルギー住宅)には80万円を補助する。省エネ性の高いエネファームの採用動機となる。
補助事業はガス会社など登録事業者が交付を受け消費者に還元する。補助対象は昨年11月2日以降に着工した物件。交付申請の受付開始は3月下旬予定。昨年同様、新築は(1)、既築は(3)が使えそうだ。
3電池住宅とJクレ活用
エネファームと太陽光発電、蓄電池を使い、購入電力量を抑え、停電時にも自宅で使える電力量を増やせる「3電池住宅」が注目を集めている。2種類の蓄電池をそろえ、10年間のFIT(固定価格買取制度)期間中および期間満了後の太陽光設置住宅のメリットを最大化する大阪ガスの3電池住宅戦略を追った。加えて、Jクレジット制度を用い、エネファームの環境価値を具現化するガス各社、自治体の取り組みも紹介する。
◆【エネファーム最前線2024】(3)平常時連携の蓄電池登場/パナソニック、アイシン、京セラ、住友電工
今年はエネファームを製造する3社の新製品はないが、アイシンのエネファームタイプSを定格運転させて家庭で使い切れなかった余剰分をためられる蓄電池が登場する。京セラは今年度上期中に全てのエネファームと停電時連携できる蓄電システムを発売する。パナソニックのエネファームの環境価値のJクレジット化の支援策等とともに紹介する。
パナソニックはLPWA機能を積んだ2021年4月発売の第7世代、23年発売の第8世代モデルの戸建て向けPEFCエネファームを対象に、ガス事業者や自治体がJクレジット制度を使い、エネファームの環境価値をクレジット化する際の支援に乗り出した。同社のサーバーから個々のエネファームの累積発電電力量を簡単に無料で取り出せるよう環境を整備し、活用を呼び掛けている。
昨年11月、ガス事業者が対象となるエネファームについて機器情報や設定・エラー通知状況を遠隔で取得できる「AFC遠隔監視システム」のメニューに、「累積発電電力量リスト出力」を追加した。エレクトリックワークス社環境エネルギービジネスユニット商品企画部エネファーム企画課の桑原愛課長は「このシステムを使うには無料、有料のいずれかのプランの加入が必要だが、累積発電電力量リストは無料プランでも見られるので、ぜひ活用いただきたい」とガス事業者の加入を呼び掛ける。
具体的には、「業務一覧」から「累積発電電力量リスト出力」を選び、次ページで「集計開始日」「集計終了日」「品番」を入れ、免責事項確認チェックを付け、検索をかけると対象のリストがCSVファイルで出力される。出力されたリストはJクレ申請の帳票へ転記して活用できる。
●4145戸に導入
今年1月、東京オリンピック・パラリンピック跡地の大型複合開発「HALUMI
FLAG(晴海フラッグ)」で中層マンション(板状棟、2690戸)の入居が始まった。大会中、選手村として活用された21棟(14~18階建て)を改装し、4棟が賃貸(1487戸)、17棟が分譲(1203戸)マンションとなった。タワー2棟(1455戸)も来秋に完成する見通しだ。
分譲の19棟計4145戸には、全戸に19年4月発売の戸建て向けをベースにサイズや重量を最適化した専用モデルのエネファームと壁掛けの容量1㌔㍗時のリチウムイオン蓄電盤が入る。停電時はエネファームが発電を停止していても蓄電盤で起動させ、停電時発電継続機能が使えるほか、蓄電盤にたくわえた電力も使用可能で、エネファームから蓄電盤への充電もできる。エネファームは蓄電盤の活用で192時間8日間の連続稼働が可能となる。
一方、事業活動で消費する全エネルギーを再エネで賄う「RE100化ソリューション」の事業化に向け、純水素燃料電池の活用も進める。発電出力5㌔㍗の「H2KIBOU」を21年10月に発売し、昨年6月には250台まで連結可能な三相三線仕様の新型機を投入。22年4月から滋賀県草津市の自社拠点で純水素型燃料電池・太陽電池・蓄電池を連携して燃料電池工場に電力供給する実証を始めた。24年度からは電子レンジ等を製造・販売するパナソニックマニュファクチャリングイギリスに新型機21台と太陽電池(290㌔㍗)、蓄電池(1㌔㍗時)を導入。気象変化や電力事情に応じた電力需給運用実証を始める予定だ。
<蓄電池活用で光熱費低減、定格発電のメリット享受/アイシン>
アイシンブランドの「エネファームタイプS」と連携できる蓄電池が昨年12月、住友電工から発売された。この蓄電池が利用者、ガス事業者双方にどんなメリットをもたらすのか、整理してみた。
タイプSと住友電工の蓄電池の併設住宅において、タイプSは蓄電池が満タンになるまで、家庭の電力負荷に追従することなく最も効率の高い定格で24時間運転する。この電力の活用により、ランニングコストメリットとガスマイホーム発電による二酸化炭素(CO2)排出削減量の最大化が図れる。アイシンは年に4934㌔㍗時の電気を使う4人家族が、蓄電池とタイプSを利用した場合、蓄電池なしに比べ年間購入電力量を615㌔㍗時(費用約9千円)、CO2排出量を0・31㌧減らせると試算する。
また、余剰分を蓄電池にためておくことで停電時に自宅で使える電力量および使用可能期間が延び、住宅のレジリエンス(強じん)性が高まる。蓄電池が満タンになるとタイプSは自動で電力追従するため切り替えの手間もない。
ガス事業者にとっては、タイプSを提案する際の新たな切り口となる点が大きい。24時間定格発電でガス販売量が増えることに加え、蓄電池販売による利益も見込まれる。タイプSの余剰電力買取サービスを行っていない事業者は、実施する事業者と同様のメリットを利用者に与えられる。実施する事業者も余剰電力を売るのか、蓄電池にためてレジリエンスを高めるのか、利用者の選択肢を増やせる。
●新工場で生産開始
販売スキームはどうなるのだろうか。アイシンエナジーソリューションカンパニーES営業部営業統括室販売企画グループの清水智弘氏は「ガス事業者に対する蓄電池の製品説明は、当社と住友電工が協力して行う。施工研修を含め取引は、住友電工と事業者との間で直接行ってもらうようにする」と説明する。
一方、アイシンは今後、現在の安城工場でのエネファーム生産を終了する。24年度から順次ラインを移行する。
<気象警報で緊急充電、エネファームモード搭載/住友電工>
住友電工は昨年12月に家庭用蓄電池「POWERDEPOV」(希望小売価格209万円)を発売した。同社は2013年に一般消費者向け商材として初めて蓄電池を発売、その5代目となる。蓄電容量3・3㌔㍗時で幅55㌢×奥行き27・5㌢×高さ76㌢、重量54㌔㌘と業界最小最軽量。遠隔距離は前面1㌢、上面10㌢。完全密閉式の筐体設計でマイナス20度~45度の環境や塩害地域、脱衣所など屋内の高湿度な場所にも設置でき、マイナス20度下で放電だけでなく充電も可能だ。2台まで連結できる。
太陽光パネル設置宅用にFIT売電を優先させる「通常モード」、自家消費を優先する「グリーンモード」、太陽光未設置宅向けに常に満充電で待機する「オフグリッドモード」、そしてエネファームタイプS設置宅用に新たに「エネファームモード」―を搭載する。
エネファームモードではタイプSの定格出力を維持。深夜など使用電力が700㍗に満たない時は充電し、超える時には放電する。停電時は特定負荷分電盤を介して電力を供給する。必要な機器はあらかじめこちらに接続しておくことで、タイプSの非常用コンセント以外にも多くの機器への電力供給が可能となる。
タイプSとFIT中の太陽光のダブル発電住宅は、エネファームモードを選択。太陽光の余剰分は売電に回し、タイプSの余剰分のみ蓄電する。太陽光が卒FITとなれば「グリーンモード」に切り替え、タイプSは家庭の電力負荷に追従させられる。
この他、台風などの警報を受け、自動的に満充電で備える「緊急充電モード」への自動切り替え機能も搭載。保証期間も10年から15年に延長し、その間、常に稼働状況をモニターし、問い合わせやトラブルに対応する無料見守りサービスを提供する。これらサービスは家庭のインターネット環境が前提となる。
エネルギーシステム事業開発部パワーエレクトロニクス技術部部長補佐の上田光保氏は「蓄電池は東京都で最大62・7万円など自治体の補助金が手厚い。レジリエンスをさらに高めるツールとして、タイプSと一緒に提案してほしい」と話す。
なお、蓄電池の施工には、月に1度、ウェブ開催する半日の施工講習会(1万1千円)を受け、IDを取得する必要がある。製品概要を含め興味のある事業者は同社ホームページの専用フォームから問い合わせを。
<エネレッツァプラス投入、エネファームと停電時連携/京セラ>
京セラは昨年1月、発電出力400㍗の小型SOFC「エネファームミニ」の第2世代モデルを発売した。重量を63㌔と従来機よりも17㌔軽量化しつつ、発電効率を50%へ3ポイント向上。保証期間も12年に延ばし、既存の給湯器への後付け設置を可能とした意欲作だ。
鬼丸長吾郎エネルギーソリューション事業部SOFC事業企画部責任者は「『後付け』というとピンとこないという意見を反映し、『既設の給湯器に発電機能をプラスオン』できるとチラシ等で紹介している。今年ミニには国の補助金18万円が付く。東京都の7万円など重複申請できる自治体の補助金も併用し、リフォーム時や給湯器を交換して間もない方などへプラスオン提案をお願いしたい」と話す。
ミニは現在東京ガス1社の採用にとどまるが「今年は他事業者にも採用してもらえるよう積極提案していきたい」という。分譲マンションの採用も出始めているようだ。
●上期中に投入
京セラは家庭用に太陽光発電システム、2019年にエネファームミニ、そして20年から自社生産の定置用蓄電池の販売を始めた。蓄電池はそれまでも他社からのODM(相手先ブランドによる設計・製造)製品を扱っていたが、19年11月から固定価格買取期間を満了した「卒FIT太陽光」が現れるのに伴い、余剰太陽光を蓄電池にためて自家消費したいというニーズを見込み、自社生産に踏み切った。一昔前の太陽光の国内市場で同社は大手の一角を占めており、自社の太陽光利用者の購入も狙った。
24年度上期には、20年に発売した世界初の半固体クレイ型リチウムイオン蓄電池を組み込んだ蓄電システムの後継機「EnerezzaPlus(エネレッツァプラス)」を投入する。蓄電池とマルチ入力型パワーコンディショナー、リモコン、通信モデムで構成。パワコンは従来、太陽光と蓄電池にそれぞれ必要だったが、マルチ入力型の1台に集約。停電時に太陽光や蓄電池だけでなく、ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車、発電機など多くの外部電力を自宅で使えるうえ、エネファームミニほか他社のエネファームとの連携もできる。
蓄電池の定格容量は5・5㌔㍗時で、3台まで連結可能。LTE回線でつながる通信モデムにより、利用者宅のネット環境によらず動作状況を確認できる。ミニには定格運転モードがないが、停電時は蓄電システムの疑似負荷モード機能で400㍗発電させ、余剰分を蓄電池にためることができる。
「3電池住宅の場合、家で使われる電気はエネファームミニ、太陽光、蓄電池の順。エネファームミニは発電量が小さい分、HVなどと組み合わせてもオーバースペックにならない点も使い勝手が良い」と鬼丸氏は指摘する。
◆【特集・エネファーム最前線2024(4)―LPガス】
LPガス事業者は、エネファームの販売成功事例の共有などで、特約店の営業力強化を図っており、着実に販売実績を挙げている。ENEOSグローブ、アストモスエネルギー、岩谷産業は、設置後10年が経過するエネファームの取り換え需要開拓にも力を入れる。高まるカーボンニュートラル(CN)への対応、レジリエンス強化などでもエネファームのメリットを前面に打ち出し、市場開拓を進めている。
●10年設置の顧客に提案/ENEOSグローブリテール企画部副部長松葉基博氏
――新築住宅向けの販売状況は。
新築住宅の着工戸数は、特に地方では大きく減少している。建築資材高騰により、戸建て住宅の価格が上昇している。現場ではエネファームの価格も上がっており、ハウスメーカーでは新築時の採用に対する抵抗感が強くなってきていることから、特に採用率の高い注文住宅の着工戸数が減少している。
――既築向けはどうか。
新築に比べて伸びが大きい。特に設置から10年以上が経過し保証が切れたエネファームの需要家に買い替えを提案すると成約率が高い。また、電気温水器やエコキュート、エコウィルからの取り換えも、潜在需要が大きい。5年くらい前は新築比率が8割程度だったが、現在は新築と既築の比率はほぼ同じくらいになっている。
――現状の課題は。
エネファーム需要家の家族構成が変わることだ。夫婦2人と子供2人の4人家族がエネファームを導入した場合、10年後、子供たちが独立して家を出て夫婦2人だけになるケースは多い。使用するお湯や電気が減ることになり、エネファームはオーバースペックになってしまうこともある。エネファームからの買い替え提案でエコジョーズやハイブリッド給湯器になる可能性もある。エネファームの提案方法に工夫が必要だ。
――熱負荷に合わせ毎日起動・停止するパナソニック製と、連続運転タイプのアイシン製で、提案方法の違いは。
4人家族以上で、入浴時間もまちまちで、お湯の使用量が多い家庭向けには、パナソニック製が向いている。一方、家族構成が高齢者の夫婦2人だけになった場合は、在宅時間が長くなり電気の使用量が平準的になる傾向にあるため、連続運転で電気需要に応じて発電量を変えるアイシン製が適している。家族構成が変わっても、停電時でも床暖房などを使い豊かで安心な生活を維持できることになる。また、九州や四国など比較的温暖なエリアでは、床暖房は必要ないと考えれば熱需要が少ないため、家族構成に関わらず、アイシン機が適していると言える。こうしたライフステージや家族構成、地域特性に応じた機器が提案できることが望ましい。
――近年、風水害、大規模地震などにより、停電が頻発化している。
エネファームの停電対応機能に対する関心は高い。LPガス供給エリアには台風や雷被害などにより停電頻度が都市圏より多く長時間に及ぶことがある。1月に能登半島地震があったばかりであり、LPガス需要家の間でも災害対応への関心は高い。
――特約店の育成をどのように進めるか。
資源エネルギー庁は24年夏に、過大な営業行為の制限を盛り込んだ液石法省令を施行し、正常な商慣習を超えた利益供与などを禁止することになった。事業エリアにおいて付加価値の高いエネファームのような高額商品を提案、販売できるくらいの営業力や顧客との関係性が、今後さらに強く求められるだろう。
ENEOSグローブでは、特約店のエネファーム販売を支援するため、研修制度「ENEOSグローブカレッジ」でエネファームの運転の特徴など基本的な商品知識を習得する「入門コース」と、販売に成功している特約店の販売手法を学び、販売活動のテコ入れをする「販売スタートアップコース」を設けている。例年、申し込みが多く、特約店向けに個別に実施している。これら研修に加え、特約店が顧客に実際に販売提案をする際にENEOSグローブの社員が同行して営業をサポートする活動も行っている。
――エネファームの実機に触れる機会のない特約店もあるのではないか。
昨年、宿直室があるENEOSグローブエナジーの拠点35カ所にエネファームを1台ずつ設置し、使ってもらっている。特約店の販売担当者にも実際にエネファームを見たことがない人がいる。そういう人にも、エネファームの設置方法や使い勝手を学んでもらった上で、顧客に提案を進めてほしい。
●多様なニーズを捉える/アストモスエネルギー国内事業本部新事業開発部副部長岡田浩氏
――2023年度のエネファーム営業の振り返りから。
22年度秋頃から電気料金の値上がりを背景に、エネファームに対するハウスメーカーの引き合いが増えていた。23年度は国からの補助金の強力な追い風が加わり、特約店も前向きになっていた。エネファームは高額商品ゆえに、かねて機能面の訴求ばかりの偏った営業を強いられてきたが、補助金を活用すれば10年間で初期投資が回収できるめども立ち、いよいよ経済的なメリットがアピールできると意気込んでいた。
ところが、折からの材料費高騰で建築価格が上昇する中、ハウスメーカーへのエネファームの基本設計組み入れは困難になり、新規顧客の開拓に苦戦する展開となった。それでもエネファームのリプレースが着々と進んだことは良かった。
ここ数年、エネファーム保証期間の満了を迎えるお客さまに、入れ替えをお勧めする営業に力を入れてきた。特約店の営業力を底上げするための人材研修として、オンライン、リアル形式の研修を使い分けるなどさまざまな施策も講じた。特約店の営業マインドは着実に高まり、成果が上がり始めている。故障が多かったエネファーム初号機を最新機に入れ替えたお客さまからは、使い勝手が良いとご評価いただいている。こうした反響も営業スタッフの自信になる。修理対応がなくなることで時間的な余裕も出てくる。
他にも、嬉しい成果があった。当社の特約店であるサンワ(群馬県前橋市)が昨年12月に新築した自社集合住宅にエネファーム、太陽光発電、家庭用蓄電池の3電池連携システムを搭載し、ネット・カーボンマイナス賃貸住宅の実証実験を開始した。ガスは当社のカーボンニュートラルLPガス(CN―LPG)を用いる。集合住宅へのエネファームLPガス機全戸設置は全国でもほとんど例がない。パナソニックの協力もあって実現したこのCN化時代の先駆的な注目事例を、すべての特約店と共有し横展開を図っていきたい。
――24年度のエネファーム営業はどのように取り組むか。
引き続きエネファームの環境性・レジリエンス性を訴えていく。能登半島地震では、ライフライン強靭化の必要性が改めて広く認識された。災害に強いLPガスとエネファームの組み合わせによるレジリエンス性をアピールしたい。24年度も国からの補助金の追い風は吹いており、しっかりと活かしたい。
エネファームの新規顧客開拓は決して楽ではないが、1軒当たりのガス販売量を増やせる切り札の商材だ。消費者のニーズは、コスト面はもちろんのこと、環境面や防災面など多様化している。ニーズに応じたサービス・商材を販売推進できるよう当社も体制を整備し、必ず普及させるという覚悟で臨みたい。
――ガス消費者の二酸化炭素(CO2)排出削減ニーズには、どう応えていくか。
当社が22年から販売を開始したCN―LPGは、取扱特約店が50社を超えた。特約店がCN―LPGの販売をさらに推進できるように、当社はCN―LPGの利用に伴うCO2排出削減量をウェブで確認できる一般消費者向けのマイページを開発した。エネファーム設置先にCN―LPGをご使用いただき、お客さまが環境貢献度を実感してもらえる活動を展開したい。このマイページはウェブ請求機能を備えており、特約店は各種商材やサービスの紹介などと合わせて顧客接点の強化に活用できる。CN―LPGの推進に積極的な特約店から順次提案させていただく予定だ。
エネファーム販売推進の次のステップとして、エネファームによるCO2削減量を当社が取りまとめ、Jクレジットに置き換えることなども検討していきたい。メーカーにも働きかけて、業界全体の取り組みとして推進を図りたい。エネファームによる環境価値をお客さまに還元できるようになれば、エネファームの魅力をさらに強く発信できる。
多様化する消費者のニーズを的確に捉え、各種商材・サービスに生かしていけるように、特約店と力を合わせて推進していく。
●地場工務店への営業強化/岩谷産業取締役専務執行役員廣田博清氏
――2023年度を振り返り成果、課題などをお聞きしたい。
まず成果について、23年度通期の着地は前年並みの270台程度を見込んでいる。主な取り組みでは、営業トークの勉強会を実施した。LPガスの小売りを行う販売子会社のトップセールスマンであるイワタニセントラル北陸の担当課長の営業トークを各事業会社の販売専任者に習得させるため、継続的に勉強会を実施しており、イワタニ関東などの販売会社実績が出始めている。
また、エネファームによる燃料転換案件を推進し、電気温水器、灯油ボイラーからのエネファーム設置案件が増えており、グループ会社の丹後ガスでは、地域工務店への提案により、新築戸建て住宅への採用実績も出ている。
半導体不足によるエネファームの生産については現在、特に影響はない。
課題は、設置から10年経過したエネファームの確実なリプレースだ。新しい販路として地域ビルダーや地場工務店へのさらなる営業活動が必要と考えている。また、商品の値上がりへの対応や、各事業会社でエネファーム販売担当者を育成し、専任化を図る。
――24年度の営業方針、販売目標について聞かせていただきたい。
24年度は過去最高の600台販売を目指す。新築向けには、大手ハウスメーカーのみならず、脱炭素、カーボンニュートラルの観点から地域ビルダーや地場工務店に対するエネファーム売込みを強化し、商品提案、説明を行う。既築向けには、給湯省エネ2024事業補助金(経済産業省の補助制度)を活用したエネファーム提案を推進し、経年給湯器の設置先、燃料転換対象先などに拡大展開する。
――特約店の営業支援をどのように進めているか。
全国の岩谷産業グループの販売子会社でのリプレースや燃転などの販売事例を特約店と共有し、営業に活用する。販売店会に向けた情報共有の機会としてエネファーム情報連絡会を23年度は4回実施した。前述のトップセールスマンの営業トークをトークスクリプト(顧客と会話する内容や流れをあらかじめ決めた台本)に落とし込み、営業マンごとにアレンジし、ロールプレイングを行っている。商品知識向上と提案スキルを高めるために、メーカー工場見学や新商品勉強会を企画している。
――リプレース営業をどう進めるか。
設置から9年半が経過した顧客に対し、10年保証の満了が近いことを知らせ、最新のエネファームの性能説明、提案を行いリプレースの促進につなげる。10年前にエネファームが搭載された新築住宅を購入した顧客の中には、エネファームの特性を十分把握しないまま使用している方もいる。最新機種は当時の機種に比べ環境性能やレジリエンス性能が大きく向上しており、顧客に改めて現在のエネファームの商品特性を詳しく伝えるようにしている。
――機能やメンテナンス面でメーカーへの要望は何かあるか。
パナソニック製については、集合住宅に設置することが多いバルク供給設備への対応をお願いしたい。バルク供給設備は、通常の戸建て住宅などに設置するシリンダーに比べ、硫黄濃度が高くなる傾向がある。集合住宅物件や簡易ガス団地へのエネファーム設置を進めていくためには、能力を上げた脱硫器をエネファームに搭載するなどのメーカー対応を希望する。
アイシン製については、沿岸地域や、沖縄での設置を推進するため、重塩害仕様の製品を汎用品と同等に生産(量産化)することをお願いしたい。停電対応の機能強化として、発電した電気を蓄電池にDC(直流)出力する機能を備えるエネファームについても同様に量産化を希望する。