水素社会構築に向けた取り組みが活発化している。政府は6月に水素基本戦略を6年振りに改定し、水素など脱炭素と経済成長の両立に資する技術の社会実装を支援するためのGX経済移行債を発行する方針を示した。水素サプライチェーン開発、LNG火力発電での水素混燃や純水素型燃料電池の技術開発、燃料電池自動車の普及や燃料インフラの水素ステーション整備など広範な分野で実証、開発が進んでいる。政策面の取り組みとメーカーの技術開発をまとめた。
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●優位な技術を世界へ―保安観点も重視―水素基本戦略を改定
今回の水素基本戦略の改定では、日本企業が技術的優位性を持つ分野の国際競争力を伸ばすという目標を明確化した。これまで2030年に300万㌧、50年に2千万㌧という水素導入目標を示していたが、新たに40年目標1200万㌧を追加した。さらに保安の観点を重視する。現行の法令間で技術基準の共通化を図り、保安規制の合理化を図る方針も示した。
市場の立ち上がりが相対的に早く、日本企業が技術的優位性を持つ分野として、①水素供給(水素製造、水素サプライチェーン構築)②脱炭素型発電③燃料電池④水素の直接利用(脱炭素型鉄鋼、脱炭素型化学製品、水素燃料船)⑤水素化合物の活用(燃料アンモニア、カーボンリサイクル製品、e―methaneなど)――を挙げた。
水素供給では、水電解装置のコスト削減と国内メーカーの国際競争力の向上を図るとした。水素サプライチェーン構築では、海外でのパートナー企業との連携などを進め、市場でのプレゼンス向上を狙うとした。
脱炭素型発電では、LNG火力への水素混焼の開発も進められているとした。水素発電技術には、サプライチェーン全体のコスト低減を目指していくことが欠かせないため、両方を一体的に支援しているとした。
燃料電池については、バス・トラックのほか、フォークリフト、船舶、鉄道などの動力源としても活用が期待されるとした。また、燃料電池はセルをコア技術とし、セパレーターや水素タンクなど、さまざまな部品から構成されると指摘。今後の本格的な量産化に向けて、これらの部材産業の育成、国内立地を促進するとした。
水素の直接利用のなかでは、脱水素型鉄鋼の開発が進んでいる。製鉄の高炉では現在、還元材にコークスを使用しているが、水素に切り替えることで、排出する二酸化炭素(CO2)を大幅に削減できる。この水素還元製鉄の技術開発を促進・確立して海外展開を進めるとしている。
水素化合物の活用では、火力発電でのアンモニア混焼実証が進められている。50%を超える混焼率の実現や専焼化に向けた技術開発・実証を進め、早期の社会実装を図るとしている。さらにカーボンニュートラルを実現するために有効な技術として合成メタン(e―methane)や合成燃料(e―fuel)などを上げ、社会実装を進めるとした。
水素の安全な利用に向け、保安規制の合理化を図る方針を示した。水素の利用を進めるために、安全性を客観的に証明する科学的データを獲得する。政府は、水素社会実現に関わる各関係者が、消費者や地域住民向けに、水素の物性や取り扱い、安全対策の理解を深める情報発信や教育を進めてほしいと考えている。
水素基本戦略に掲げられた水素関連の技術の開発は、グリーンイノベーション(GI)基金を活用した実証が進展している。
液化水素サプライチェーンの大規模実証は、30年に1立方㍍当たり30円の水素供給コストを実現するため、海上輸送技術を世界に先駆けて確立する目的で、液化水素運搬船を使った商用化実証を行っている。川崎重工業、ENEOS、岩谷産業などが参画している。
水素発電技術の実機実証は、水素ガスタービン発電(30%混焼と100%水素専焼)を30年までに商用化するため、新たに開発した燃焼器を発電所に実装し、燃焼安定性などを検証している。JERA、関西電力、ENEOSが実証を進めている。
これらGI基金を活用した実証は30年度までのものだ。30年度以降は水素の本格導入に向け、商用化を進めていくことになる。水素の輸送などの商用化に初めて踏み切る事業者を「ファーストムーバー」と位置付け、LNGなどの既存燃料と水素の価格差を支援する。この財源として期待されているのがGX経済移行債だ。今年6月のGX推進法施行により、政府はGX経済移行債の発行が可能となった。発行は来年2月を予定しており、調達資金の使途として、再生可能エネルギーの主力電源化などのほか、水素・アンモニアの導入促進が明記されている。
経済産業省は、価格差支援の具体的な制度や、産業保安の観点から必要な制度設計などを検討するための合同会議を10月4日から開催、2回目の会合を同月25日、3回目の会合を11月14日に開催した。年末までに計4回の会合を開き、中間とりまとめを行う予定だ。
●大型貯槽の離隔距離など―導入基準の策定進める/KHK
高圧ガス保安協会(KHK)は、水素社会実現に向け、規制合理化の提言や基準策定、検査・認証業務、事故調査などで貢献していく方針だ。現在、大規模水素供給インフラの整備に向け、大型貯槽の離隔距離の基準の適正化や水電解装置導入に伴う基準整備などに取り組んでいる。
2025年以降、大量の液化水素の輸入が始まることが見込まれており、大型貯槽の建設が進むことが予想される。このため5万㌔㍑程度の水素貯槽を建設する際の安全基準づくりを進めている。JAXA、横浜国立大学とともに新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募事業の採択を受け、23~25年度までの3カ年計画で実証事業に取り組んでいる。
安全確保に必要な液化水素貯槽から事業所敷地境界までのより合理的な離隔距離について実証実験を行い検討する。5万㌔㍑のLNG貯槽の場合、必要な離隔距離は約160㍍になるが、同等規模の液化水素貯槽に現行ルールを適用すると、その距離はLNG貯槽の約2倍になるという。来年度末頃に秋田県内の試験場に、液化水素タンクや防液堤を模擬した3㍍四方のコンクリート製貯留槽などの実験設備を設置し、数カ月の期間で、実際に貯留槽内に水素を漏えい・拡散・着火させて、燃焼状況を確認する。また、実験データに基づき、水素が漏えいした際の拡散挙動・爆発の影響などのシミュレーション手法を確立し、安全を確保できる離隔距離や防液堤の基準の合理化・適正化を検討する。
水電解水素製造装置は、本年6月に改定された水素基本戦略で2030年における導入目標が設定され、再生可能エネルギーを活用してクリーンな水素を製造できる機器として注目されている。現在、1メガパスカル未満の圧力で使用する水電解水素製造装置は高圧ガス保安法の適用を受けないが、海外では1メガパスカル未満で使用していた水電解水素製造装置が爆発する事故も発生しており、同装置の普及に向けては安全の確保が重要となっている。
NEDO事業の採択を受けて、KHKは23年度中にどのような手続きや検査が必要か、現状の課題を整理して、あるべき形を提言する。安全確保策や設計基準のポイントを検討。国内外で発生した事故などの情報を収集し、国際基準との整合性をとり、安全基準に反映させる。
KHKは、水素利用機器の国内普及段階でも、保安上の検査などを実施し、国や地方自治体の業務をサポートしていく考えだ。水素の保安業務に従事する人材を教育するための研修プログラム作りも進めていく。
●中国が電解装置製造リード―水素閣僚会議で専門家が講演/第6回水素閣僚会議
経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が9月に東京都内のホテルで開催した第6回水素閣僚会議では、2030年までに世界で1億5千万㌧の水素需要を創出する目標などを盛り込んだ議長声明を発表したほか、国内外の専門家による講演発表も行われた。中国が水電気分解装置の製造をリードしており、今年中に世界シェアの半分を占めることになるという見通しなどが示された。国際エネルギー機関(IEA)、韓国ガス安全公社、世界銀行の講演内容を紹介する。
IEAエナジー・テクノロジー・アナリストのホセ・ブルムーデス氏は「再生可能エネルギーで製造する水素はまだコストが高いが、技術開発によりコストの障壁を乗り越えることができれば大幅に伸びるかもしれない。低炭素の水素導入はまだ早期の段階といえる」と話した。
世界の水電気分解装置の市場規模が拡大していると指摘。23年には累計の導入規模は数百ギガワットになり、導入の転換期となると予想した。さらに「中国が水電気分解装置の製造でリードしている状況だ。数年前までは全世界に占めるシェアは10%未満だったが、今年末までにシェアの半分を占めることになるだろう」と述べた。
世界銀行のデメトリオス・パパサナシオウ氏は「水素は主に金属熱処理や半導体製造、アンモニアの生産などの工業用分野で既に年間1億㌧以上が全世界で使用されている。このうちクリーン水素と言えるのは200万㌧程度。残りの98%は天然ガスなどから生産されるグレー水素だ。現在の水素生産からは年間約10億㌧のCO2が排出されている」と指摘。水素はCO2排出低減が難しい化学、鉄鋼、航空、海上輸送分野において大きな役割を果たす可能性があり「クリーン水素がエネルギー移行のカギを握っている」と述べた。
年間100万㌧のグリーン水素を生産するためには、10ギガワットの電気分解装置と、太陽光発電などの再生可能エネルギーが20ギガワット必要だと指摘。そのために必要な投資額は300億㌦に上り「これは優れた投資機会だ。テクノロジーが必要とされており、多くの先進国において水素産業を成長させる機会となる」と述べた。
パパサナシオウ氏は「50年のネットゼロを実現するにはグリーン水素が重要な役割を果たす。国際的な貿易が不可欠であり、将来はグリーン水素の輸送の半分はパイプライン、残り半分は船舶輸送になるとみている。欧州が水素投資の中心地となり、重要な役割を果たす。アジアへの大規模な輸出も見込まれる。途上国における低炭素の水素プロジェクトについて、世界銀行はブラジル、モーリタニア、ナミビア、南アフリカでどのような取り組みが必要か検討している」と述べた。
韓国ガス安全公社ガス安全研究院のパク・ヒジュン委員長は、韓国の水素保安政策について説明した。「23年に水素安全管理ロードマップ2・0を発表した。水素産業の環境変化に対応し、水素新技術の安全性確保と新産業活性化のための安全制度の改善を目標としている。ロードマップは大きく三つの戦略に分かれている。一つは水素の安全基準の開発。二つ目は水素産業育成のための規制改革。三つめは安全と産業のバランスの取れた発展のための水素安全管理だ」と説明した。
【供給網構築へ新たな動き】
●国内約8カ所で拠点整備、各地で指定に向けた官民連携
6月に改定された「水素基本戦略」では、水素・アンモニアの安定・安価な供給を可能とする大規模な需要創出と、サプライチェーンの構築を図るため、供給インフラの整備を国が支援していく方針が示された。今後10年間で、産業分野での大規模需要が見込まれる大都市圏を中心に大規模拠点を3カ所程度、相当規模の需要集積が見込まれる地域ごとに中規模拠点を5カ所程度整備するとしている。これを受け、各地で拠点の指定を目指した官民連携の動きが活発化している。
川崎臨海部は、日本水素エネルギー、岩谷産業、ENEOSが新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業として行う大規模液化水素サプライチェーン商用化実証で、液化水素の受け入れ地に選定された。安価で安定供給が見込める褐炭から製造された水素が豪州ビクトリア州ヘイスティングス地区から出荷され、川崎港で受け入れる計画だ。
受入基地の候補とみられるのが、JFEスチール東日本製鉄所京浜地区(川崎市川崎区扇島)の高炉の跡地。同社は9月に同地区の高炉の操業を休止した。跡地利用についてJFEホールディングスなどと協議してきた川崎市は8月、跡地についての土地利用方針を公表。水素サプライチェーン商用化実証事業の受入地として川崎臨海部が選定されたことを踏まえ、水素を軸としたカーボンニュートラルエネルギーの受入・貯蔵・供給の拠点形成ができるよう、2028年度から一部土地利用を開始する方針を示した。
横浜市は8月、脱炭素に向けた取り組みを推進する産学官連携組織「横浜脱炭素イノベーション協議会」を立ち上げた。同市をはじめ、ENEOSや東京ガスなど、42の企業・団体が参加。脱炭素への将来像を官民で共有し、GX(グリーントランスフォーメーション)投資を呼び込みながら、水素・アンモニア、合成メタン、合成燃料など、次世代エネルギーの供給・需要の大規模拠点形成を図る。当面は国が指定する水素拠点に選定されることを目指す。
福岡県は5月、産学官連携組織「福岡県水素拠点化推進協議会」を立ち上げた。北九州市響灘臨海部を中心に水素の大規模拠点を形成し、水素を活用した地域の成長を図る。まずは国による拠点指定の獲得を目指す。
会長は服部誠太郎知事が務め、副会長に北九州市の武内和久市長、西部ガスの木下貴夫取締役常務執行役員、九州電力の穐山泰治取締役常務執行役、日本製鉄の中田昌宏常務執行役員が就いた。水素関連の19社が会員として参加。水素・燃料電池関連の最先端研究拠点である九州大学がオブザーバーで参加している。
海外から調達する水素、地域内の再生可能エネルギーを活用して製造するグリーン水素、産業分野で発生する副生水素。これら多様な水素が活用可能であることを強調する。また、北九州水素タウンでの水素パイプラインを使った技術実証など、これまでさまざまな水素関連の先進的な取り組みを進めてきた強みを生かす。さらに、太平洋側だけでなく、日本海側にも水素拠点を構えることはエネルギー安全保障において重要であることも訴求していく。
●混焼・専焼技術の拡充、水素発電普及に向けた連携も/川崎重工
水素需要の創出・拡大を図る上で柱になるのが発電用燃料としての活用だ。川崎重工業は3月、発電出力1800~3万㌔㍗級まで同社のコージェネレーションシステム用ガスタービン全5機種でドライ式の水素混焼燃焼器の市場投入を完了したと発表した。ドライ式は、燃焼器内で水や蒸気を噴射せずに窒素酸化物(NOχ)排出量を抑えながら高効率発電を実現する燃焼方式。天然ガスに対し、体積比で30%までの水素の混焼が可能。水素と空気を混合してから燃焼させる希薄予混合燃焼を採用し、局所的な高温部分をなくしてNOχの発生を抑え、追だき燃焼を組み合わせて安定燃焼を可能とする。
将来のカーボンニュートラルを見据え、こうした「水素READY仕様」コージェネを採用する事業者が広がりつつあるという。同社エネルギーソリューション&マリンカンパニーエネルギーディビジョンの辰巳康治・水素発電プロジェクト開発室長は、水素混焼技術について、「水素の入手が困難な時期は天然ガスで運用し、水素が調達しやすくなれば、水素圧縮機や燃料混合システムなどを追加して混焼化が可能。天然ガスと水素を柔軟に使えるようにすることで、ユーザーは投資コストを抑えながら安心して水素発電を導入できる」と指摘する。
同社は9月、世界初となるドライ式の水素100%燃焼(専焼)1800㌔㍗級ガスタービンコージェネレーションシステムの販売を開始した。直径1㍉以下の多数の微小噴射孔から燃料を噴射するマイクロミックス燃焼技術を開発。追いだき燃焼を組み合わせて水素専焼による安定燃焼・安定出力を実現した。専焼だけでなく、体積比50%~100%の割合で天然ガスとの混焼も可能。水素の価格や調達状況に応じて混焼割合を柔軟に変えられる。
「ドライ式水素専焼は当社の独自技術。導入当初の水素混焼から将来の水素専焼までの道筋を示すことで、水素発電の導入促進につなげていきたい」(辰巳室長)。
日本の産業・民生部門での消費エネルギーの約6割は熱需要とされている。電気だけでなく、カーボンフリーな熱も供給可能な水素ガスタービンコージェネは、高温の熱を必要とする産業分野のカーボンニュートラル化に寄与するとしている。
こうした産業分野での水素の活用を見据え、新たな取り組みも進めている。同社は9月、川崎市と商用規模の液化水素サプライチェーンの構築に向けた連携協定を締結。さまざまな産業が集積する川崎臨海部で水素の需要創出を図る。同社水素戦略本部の柏原宏行カーボンニュートラル推進総括部長は、「商用レベルの水素サプライチェーンを構築するためには、技術の確立やインフラ整備、コストなど、さまざまな課題を克服していく必要がある。官民で緊密に連携して取り組んでいく」と話す。
さらに大手化学メーカーのレゾナックと、水素発電事業の実現に向けて協業すると発表。液化水素サプライチェーンが確立される2030年ごろ、川崎臨海部で10万㌔㍗級水素発電の社会実装を目指す。商用規模の水素発電事業は国内初となる見込みで、「水素利用のロールモデルとなる案件」(柏原部長)と位置付ける。今後、こうした水素燃料発電の普及を加速させていく。
●RTGMSの活用を提案、混合ガス中の水素濃度を管理/理研計器
水素を発電用の燃料、あるいは合成メタン製造の原料として活用する際に、原燃料に含まれる水素の濃度や熱量の管理が重要となる。理研計器は、複数のガスが混ざった混合ガスに関して、各ガス濃度や熱量を測定できる「リアルタイムガスモニタリングシステム(RTGMS)」の活用を提案している。同社の既存のガス検知器やセンシング技術を組み合わせ、一般的な分析機器よりも安価で手軽に導入でき、リアルタイムで測定できる点を特徴とする。
同社の主力機器の一つに防爆型熱量計「OHC―800」がある。この機器は、都市ガス事業者が都市ガスの熱量管理で活用している。天然ガスにはメタンだけでなく、窒素や二酸化炭素(CO2)などの不燃性の雑ガスも混ざっており、これら雑ガスは熱量測定で誤差の原因となる。OHC―800は、この雑ガスの影響を受けずに熱量を測定できる。天然ガスの中を伝わる光の速度のデータと、音の速度のデータを組み合わせた独自の「オプトソニック演算」により、雑ガスの影響を排除して高精度の熱量測定を可能とする。「オプトソニック」とは、光学を意味する「オプティカル」と、音速を意味する「ソニック」を合わせた造語だ。
RTGMSは、OHC―800に演算装置であるPLCやガス検知器、センシング技術を組み合わせて構成され、複数成分ガスを区分したリアルタイムモニタリング(連続測定)を可能とする。この組み合わせには600種類以上の豊富なセンサーラインアップを持つ同社の強みが生かされる。
RTGMSは主に、都市ガスと水素の混焼、水素の専焼、水素の製造(水電解)、都市ガスとアンモニアの混焼、アンモニアの合成・分解、メタネーションなどに関する実証や技術開発で活用されている。濃度や熱量を連続測定できることで、データを基に燃焼や混合・分解などの運転制御を最適化できるとしている。
例えば、水素とCO2による合成メタンの製造時、あるいはアンモニアの合成・分解時は、OHC―800とPLCを使い、「合成メタン・水素・CO2」「アンモニア・水素・窒素」の3成分それぞれの濃度をモニタリングする。触媒で反応させる際、1回で100%反応とはならずに、未反応の水素・CO2・窒素が生じる。これらの量をリアルタイムで把握し、場合によっては2回目以降の反応で活用する。一般的な分析装置だと30分に1回などの測定によるタイムラグが生じるが、RTGMSであればリアルタイムで把握でき、触媒の反応制御や原材料の追加制御に反映できる。特にメタネーションでは合成メタン中の水素残量の常時監視も可能であり、合成メタンの品質向上につなげられるとしている。
3成分以上のガスモニタリングも可能。例えば、メタネーションで窒素パージも含め「合成メタン・水素・CO2・窒素」の4成分をモニタリングする場合は、OHC―800に、信号変換器付ガス検知部「SD―3シリーズ」、PLCを組み合わせることで測定できる。
発電用燃料として都市ガスと水素を混焼させて混合前後の熱量や混合後の水素の濃度などを調べる場合は、OHC―800に、水素の純度測定などで使われている耐圧防爆構造の光波干渉式ガスモニター「FI―900」とPLCを組み合わせる。最適制御によって発電効率の向上につなげられるとしている。
RTGMSの導入実績で最も多いのはメタネーション関係。ガス事業者のメタネーション事業用への納入実績も持つ。2030年までに国内外あわせ年間50セットの納入を目指す。
【大容量充てんや小型化が進む】
●海外市場での拡販目指す―韓国・北米市場に積極進出/タツノ
タツノは大型燃料電池(FC)トラック用水素ディスペンサー(充てん機)を開発し国内外での水素充てんインフラの拡張に力を入れている。今年中に韓国の現地法人で生産と直接販売を開始する計画だ。北米でも拡販を図る。
同社は、電動化が難しい大型商用車分野でのFCトラックやFCバスの普及拡大を想定して、現行モデル約1・5倍の充てん能力を持つミドルフロー(MF)に対応したディスペンサー「LUMINOUSH2」(ルミナスH2)を開発。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が福島県浪江町に整備した「福島水素充填技術研究センター」に、1号機を昨年12月に納入している。
ルミナスH2は片面にMFノズルを2本装備しているのが特徴。乗用車タイプの水素自動車(FCV)には、1本のノズルで充てんする。二つの充てん口を搭載するFCトラックには2本のノズルで同時充てんが可能で、充てん時間を従来の約3分の1となる約9分に短縮する。これは一般的な大型ディーゼルトラックに給油する時間と遜色がない。
水素ステーション(ST)は国内の展開が鈍化しているが、韓国や北米ではFCVの普及対象を大型商用車に特化して、水素STの新規建設が進行している。特に韓国では、水素STの建設件数が既に日本を上回っている。
同社はすでに韓国の企業に技術や部品を提供しパートナーシップを構築しており、タツノ製の部品コリオリ流量計や技術を使った水素ディスペンサーの韓国国内のシェアは5割近い。
また同社は、1970年に設立した100%子会社の韓国現地法人「韓国タツノ」(KTC)で、水素ディスペンサーを生産する準備を進めている。
ディスペンサーの心臓部である流量計や緊急離脱カップリング、ノズルは同社の技術力を生かし日本で生産し、KTCに送り、韓国内で調達する部品と組み合わせて水素ディスペンサーとして製品化する。今年中にKTCが水素ディスペンサーの製造、販売、メンテナンスまでワンストップで行う体制を整え、水素インフラの拡充を支援する。
同社水素事業部の木村潔部長代理は「当社は日米韓の3カ国合わせて200基近くの水素ディスペンサーを供給してきた実績が強みだ。韓国内のメーカーとコラボレーションして、現地でアフターサービス網を構築することで、お客さまに充実したサービスを提供する。2024年で10台以上の販売を見込んでいる」と話す。
韓国での販促を図るため、今年9月13~15日にコヤン市で開催された水素展示会「H2MEET」にKTCが韓国国内で生産した水素ディスペンサーを出展し、国産品であることなどで好評を得た。
一方、北米市場はノズル等を大口径化し、HF(ハイフロー)で急速充てんする方式の実用化に向け検討が進んでおり、タツノもHFタイプの水素ディスペンサーを開発済みだ。HFタイプはノズルやホースが重くなり、操作性が悪くなるデメリットがあるが、北米では大型車向けに採用が検討されている。
米国カリフォルニア州で水素STの建設・運営・メンテナンスのトップシェアを持つファーストエレメントフューエル社を中心に、拡販を目指している。
●製品開発を加速―大容量充てん機普及に向け/トキコシステムソリューションズ
トキコシステムソリューションズは、今後普及が期待されている大型燃料電池(FC)トラックに対応する大容量充てんが可能な水素ディスペンサーの開発を加速させている。
同社静岡事業所(静岡県掛川市)敷地内に昨年9月、水素ガス充てん試験施設「水素先端技術センター」が竣工したことで、自社での大容量の流量試験が可能になった。
同センターでは大容量・高速充てんに対応する水素ディスペンサーの研究開発とともに、計量精度などを確認する出荷前試験も行う。今後、大流量ディスペンサーの生産台数が増えた場合の検査数増にも対応可能になった。
同社は本体片側に2本のホースとノズルを備え、1分当たりの最大流量を現行機種の3倍にした高速充てんが可能なミドルフロー(MF)の水素ディスペンサーを開発済みだ。異なる車種2台への同時充てん、あるいは充てん口を二つ持つ大型FCトラックへの二口同時充てんを想定している。
本体は開発済みのため、評価中のMF充てん対応のホースやノズルが市販されれば、すぐに市場投入できる段階にある。
ただ、水素の充てんには車載タンクの急速な温度上昇を抑制するなど特別な規格(プロトコル)への対応が必要だ。MFでの充てんプロトコルは未整備のため、同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進めている「競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/水素ステーションの低コスト化・高度化に係る技術開発/HDV用水素充填プロトコルの研究開発」に参画し、規格化に協力している。
同社のこのディスペンサーは、岩谷産業が今年9月、日本で初めて高速道路のパーキングエリア・サービスエリア(SA)内に開業した「イワタニ水素ステーション足柄SA」(静岡県御殿場市)に設置済みで、大規模改造をせずにMFに対応可能だ。また、1台のディスペンサーに2本のホースを装備した2台同時充てん可能な水素ディスペンサーが、商用ステーションに設置されたのも日本初だ。
大型FCトラックは現在、いすゞ自動車や日野自動車など国産メーカーが開発を進めている。トキコシステムソリューションズは大型FCトラック普及に足並みをそろえて、MF水素ディスペンサーを市販化することを目指している。また、同社はNEDOの事業で、1本のホースとノズルで高速充てんが可能なハイフロー(HF)の充てんプロトコルの開発も進めている。
中井寛インフラ・エンジニアリング営業部担当部長は「求められるところに求められるものを提供するのが当社の方針。将来的にMFにもHFのどちらが主流になるか現時点では不明だが、どちらにも対応できるよう商品化に注力している」と話す。
一方、最近は海外市場の開拓にも注力している。同社が特に期待しているのは、トラックやバスなど大型FC車の台数が拡大しつつある韓国だ。韓国では同社のLPGのディスペンサーが高シェアを獲得していることに加え、過去にはラッキー金星(現LG)グループにガソリンディスペンサーの技術を供与したこともある。
榧根尚之設計開発本部担当本部長は「当社の水素ディスペンサーは、日本国内で過去にさまざまな実証試験を経て信頼性の高い製品を開発してきたことや、豊富な設置実績を背景に、韓国でも耐久性や信頼性の高さに定評がある」と説明する。
韓国以外のアジアや米国への進出を検討している。特に米国はエネルギー省が全米に水素ハブを設置する構想を発表していることから、今後有望な市場と同社は見込んでおり、製品やその構成部品の認証取得に着手している。
●設置面積が従来比4割縮小―新型「ハイサーブ300X」を発売/大阪ガスリキッド
大阪ガスは、コンパクト化とコストダウンを実現した水素製造装置「HYSERVE(ハイサーブ)-300X」を新開発した。ハイサーブシリーズの特許は同社が保有しているが、主に工業用需要家向けの製造・販売は大阪ガスリキッドが対応している。
ハイサーブは都市ガスやプロパン、バイオガスなどを原料にオンサイトで純度99・999%以上の高純度水素を製造できるのが特徴。水素の製造能力別に3タイプがあり、300Xは毎時300立方㍍とシリーズの中で最大の能力を有する。
300Xは水素の製造フローを抜本的に見直し、構成機器数の削減などによって、従来モデルと比較して約40%のコンパクト化(設置面積縮小)を実現。これまで液体水素や圧縮水素を受け入れていた工場がハイサーブを導入する際も、設置場所の自由度が増した。大阪ガスの開発担当者によると、メンテナンス性を考慮しつつ、設置スペースを減らすのに苦労したという。
水素の製造フローの見直しや、旧型機では別々であった熱交換器と改質器を一体型にした。水素の純度を上げる圧力スウィング吸着(PSA)装置なども設計を見直し、真空ポンプを不要にするなど、さまざまな工夫を施したことで、部品点数を大幅に削減している。真空ポンプをなくしたことで消費電力が旧型機に比べ3~4割下がったことなどから、ランニングコストが低減するというメリットも生じた。
さらに、旧型機では本体とは別に制御盤を設置する工事が必要だったが、300Xは本体に制御盤を組み込んだため、設置工事費用も低減している。初号機は半導体製造工場に納入が決定している。今後、半導体製造のほか、金属加工業など製品の製造過程で水素を使用する工場向けに拡販を図る。
大阪ガスリキッドはハイサーブの販売だけでなく、納入後の運転管理やメンテナンスなどのサービスにも力を入れている点が特徴だ。
内田睦水素ソリューション部長は「運転状況の遠隔監視や保守費用を含めたメンテナンスサービスや、人工知能(AI)を活用した故障予兆監視システム運用などにより、これまで液体水素や圧縮水素を使用していたお客さま、新規に装置導入されるお客さまは、機器メンテナンスの専門技術者がいなくても安心してハイサーブをご使用いただける」と話す。
ハイサーブで製造した水素は、都市ガスやプロパンを原料にしているためグレー水素に分類されるものの、グリーン電力を使用しない場合の水電解装置の二酸化炭素(CO2)発生量に比べて少ない。ハイサーブでバイオガスやe―methane(e―メタン)を原料にすれば二酸化炭素発生量は更に少なくなる。大阪ガスでは環境性を追求するためにハイサーブの燃焼排ガス中に含まれるCO2を回収する装置開発も検討しているという。
同社は今年12月13~15日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される半導体関係の展示会セミコンジャパンにブースを出展し、ハイサーブをPRするという。
【FCVの普及をサポート】
●水素大量供給に対応―5カ年で1780億円投資/岩谷産業
岩谷産業は、今年6月に発表した中期経営計画「PLAN27」の重点施策の一つとして水素戦略を掲げ、2027年度までの5カ年で水素関連へ1780億円を投資するとした。水素の製造、輸送、利用分野へ積極的に投資し、30年以降の水素大量供給時代に備える。同社の取り組みを紹介する。
製造分野には5年間で1150億円を投資する。内訳は廃プラスチック由来の水素製造や、液化水素の国内第4工場建設などだ。廃プラスチック由来の水素製造については、岩谷産業、日揮ホールディングス、豊田通商の3社が事業性調査を行っている。廃プラスチックの回収量見込みや需要規模、補助制度などについて調査を進めている。
2030年以降は、海外から大量のブルー水素やグリーン水素が輸入される予定だ。海外の水素サプライチェーン開発には300億円を投資する。ただ、それまでに国内の水素の需要を増やすことが重要だ。現在、工業分野における水素は、半導体や光ファイバーなど、多くの分野で使われているが、今後は脱炭素を目的とした需要が増える見込み。水素発電のほか、製鉄用高炉の還元剤としての利用、メタネーションの原料、熱需要などが注目されている。
薮ノ成仁・水素バリューチーム部長は「海外からの輸入と同時に、国内の水素製造にもこだわっていきたい」と話す。岩谷産業は現在、大阪府堺市のハイドロエッジ、山口県周南市の山口リキッドハイドロジェン、千葉県市原市の岩谷ガス千葉工場の3カ所の製造拠点から、全国のユーザーに液化・圧縮水素を供給している。3工場の液化水素製造能力は合計年間1・2億立方㍍。今後、需要拡大が見込まれるため、第4工場の建設を検討している。
ハイドロエッジは、LNGを原料に改質で水素を製造しており、ほかの2工場は近隣の電解ソーダ工場で副次的に製造された水素の供給を受け、圧縮・精製し液化水素を製造している。第4工場の建設場所は現在検討中だが、26~27年頃の稼働開始を目指す考えだ。「水素需要のあるエリアに建設することになる」(藪ノ部長)としており、関東地区、中部地区などが有力候補となる。
水素ステーション(ST)整備を中心に330億円を投資する。23年10月時点で国内164カ所ある水素STのうち、岩谷産業が運用に携わっているのは51カ所だ。岩谷産業は、4大都市圏および周辺自治体の市街地から設置を始めたが、現在は高速道路や物流拠点などへの整備に重点を置いている。
9月には初の高速道路サービスエリア(SA)・パーキングエリアへの設置となるイワタニ水素ST足柄SAを開所した。24年中には京浜トラックターミナル平和島サービスステーション(SS)に岩谷コスモ水素ST平和島(仮称)を併設する。どちらもFCトラックに対応し、1台当たり20分程度で充てんを完了できる。後者は岩谷産業とコスモ石油マーケティングが折半出資で設立した新会社・岩谷コスモ水素ステーションが運営する。
新会社設立の狙いについて、薮ノ部長は「コスモ石油はトラックが頻繁に給油するSSを多く持っている。今後、FCトラックの導入が増えていくことが期待されている。コスモ石油のSSに水素STを併設していくことで、FCトラックの需要に応えることができる」と話す。
FCバス向けのST整備も進めていく。岩谷コスモ水素ステーションは今年、東京都が江東区有明の有明自動車営業所と同区新砂3丁目の都有地の2カ所で実施した、都バス専用水素STの整備・運営事業者の募集に応募。2カ所とも同社が整備・運営事業者に決定した。開所時期は両STとも25年度以降の予定だ。
岩谷産業は都バス専用水素STの運営に携わるのを機に、8月からFCバスの都バス3台にラッピング広告を実施している。広告を通じて同社が水素供給に関わっていることを広くPRする考えだ。
●製造・輸送・利用で貢献―幅広い水素関連製品を開発/三菱化工機
三菱化工機は、オンサイト水素製造装置「HyGeia(ハイジェイア)」シリーズを拡販するほか、水素キャリアにメチルシクロヘキサン(MCH)を使用するサプライチェーン「SPERA水素システム」に向けて脱水素ユニットを納入している。水素の製造工程で排出する二酸化炭素(CO2)を微細藻類屋外培養装置へ投入、微細藻類培養の実証も進めている。下水バイオガス由来の水素を使用する福岡市水素ステーションの運営にも携わっている。同社が開発を進める水素の製造・貯蔵・輸送・利用技術およびCO2利活用技術を紹介する。
ハイジェイアシリーズは、都市ガス13AやLPGから水素を製造する装置。製造能力50、100、200、300、500、千ノルマル立方㍍/時の6機種が主力製品だ。三菱化工機は8月、カーボンニュートラル都市ガスを原料に300ノルマル立方㍍タイプであるHyGeia‐Aで製造した水素を水素吸蔵合金タンクに充てんして東京都稲城市の夏祭会場に運搬、可搬型燃料電池で発電した電気をキッチンカーやステージの音響機器に供給した。こうしたイベントでの水素活用は10月に福岡県古賀市でも実施した。水素の認知度向上策として、今後も続ける方針だ。
ハイジェイアは、製鉄プロセスの分野でも採用されている。JFEスチールは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として、製鉄プロセスの低炭素化を進めている。高炉から発生する排ガス中のCO2を水素と反応させて合成メタンに変換し、還元剤として高炉で利用する技術開発を進めている。三菱化工機は、合成メタンの製造に使用する水素の供給用として、ハイジェイアを受注している。
太陽光発電など再生可能エネルギーで作った電気で水を電解し、水素を製造する技術に注目が集まっている。三菱化工機は、高砂熱学工業と共同で水電解水素製造装置の開発を進めており、水素製造量2・5立方㍍/時の装置を実証用として納入済み。100立方㍍/時の大型設備も市場投入に向けて現在開発中だ。
千代田化工建設などが実証中のSPERA水素システムは、水素とトルエンを化学反応させてMCHを製造、需要地にタンカーで輸送し、荷揚げ後に脱水素ユニットでトルエンと水素に分離する輸送方式だ。三菱化工機は水素製造装置HyGeiaシリーズで培った小型化、パッケージ化技術を活用し脱水素ユニットを納入している。千代田化工建設など4社は、MCHを使ってブルネイから水素を日本に輸送し、ガスタービン発電設備で燃焼する実証事業を2020年から実施している。
回収したCO2を利活用する微細藻類屋外培養装置「フォトバイオリアクター」は、植物プランクトンなどの微細藻類を培養する装置。現在、三菱化工機の川崎製作所でハイジェイアから発生するCO2を含む排気ガスをフォトバイオリアクターに投入し、CO2、水、栄養素微細藻類を培養する実証を行っている。収穫した藻類は、持続可能な航空燃料(SAF)の原料等として有望とみており、今後石油代替燃料、化粧品、サプリメント等の製造プラント向けに供給したい考えだ。
福岡市水素ステーションは2014年~15年度の国土交通省の実証事業で建設・整備された。三菱化工機、福岡市、九州大学、豊田通商の4社が下水バイオガスからハイジェイアを使って水素を製造。水素ステーションで燃料電池車への燃料水素の充てんに利用した。三菱化工機など4社は国の実証終了後も22年度まで自主研究として水素ステーションを運用。その後いったん休止していたが、22年9月に設備を福岡市に移管し、市から委託を受けた協議会(福岡市、西部ガス、三菱化工機など6社で構成)が商業運転を行っている。現在、週に4日間営業している。
●漏えい検知の製品多様に―中国製FCトラックにも採用/新コスモス電機
新コスモス電機は水素ステーション向け漏えい検知器のほか、燃料電池自動車(FCV)搭載用の水素センサーも販売しており、トヨタ自動車の「MIRAI」に加え、中国メーカーにも採用された。4月からは工場の架空配管など離れた場所のガス漏えいをカメラ画像で遠隔検知できる製品も発売するなど、幅広い用途に対応。水素関連製品の販売領域を広げている。
ハンディタイプのガス検知器「コスモテクターシリーズ」は、メタン、プロパン、水素など幅広い可燃性ガスを検知できる製品で、累計販売台数が10万台を超えるロングセラー商品だ。石油化学工場などをはじめ、可燃性ガスを使用するプラント配管の日常点検など、幅広い用途に導入されている。
21年7月には同シリーズの新製品「XP―3000Ⅱ」を発売した。低濃度から爆発危険濃度までの可燃性ガスを1台で検知できるほか、耐衝撃性を従来機種よりも向上した。
FCVの充てん設備である水素ステーションは、国の水素基本戦略に沿っての建設が進められており、10月現在の整備数は全国164カ所となっている。ここ1、2年は大都市圏や高速道路のサービスエリアなどを中心に大型トラック・バスを対象とした水素ステーションが増えている。
水素ステーションでは、始業前と終業時に200カ所程度の漏えい点検を行う。コスモテクターシリーズは、水素ステーションの点検用としても多くの導入実績があり、将来的に新製品への取り換え需要が出てくるとみている。
水素検知器「KD―12」「PD―12」は、水素ステーションの設備の内部に設置する製品だ。「KD―12」は水素が漏えいしセンサーまで水素が到達すると検知する拡散式で、設置場所は蓄圧器や圧縮機のパッケージ内、ディスペンサ―内などだ。「PD―12」は、本体から離れた場所の気体を導入管で吸引して水素を検知する。設置場所は、水素ディスペンサー内部で、充てん用ホースのカップリング部(FCVの充てん口との接続部)の水素漏えいを監視する。FCトラック向けの大型水素STが増えることで、「KD―12」「PD―12」ともに1ステーション当たりの採用数が増えると見込まれる。
車載用水素ディテクタは、新コスモス電機が20年にトヨタ自動車のFCV「MIRAI」向けに開発した製品だ。水素タンク上部に2個、車体フロント部分のFCユニット上部に1個の計3個を設置する。水素漏えいを検知すると即時に運転者に警報すると同時に水素タンクの元弁を遮断し、水素の供給を停止させる仕組みになっている。
MIRAI向けに加え、22年1月からは中国メーカーのFCトラック向けにも販売を始めた。FCトラック1台に5個程度の水素ディテクタが搭載されている。営業計画推進部の岩見知明・商品企画担当部長は「中国のFCトラック向けは前年度3千個以上の販売実績を上げている。初期は生産が間に合わないくらいの勢いだった」と話す。今後の販売増にも大きな期待を寄せている。
将来は、海外で製造された液体水素を輸入するための貯蔵設備や受け入れ・払い出し設備の建設が見込まれている。新コスモス電機は、こうした貯蔵設備や周辺のコンビナート・工場の配管などでの水素の検知需要が高まるとみている。また、水素などのガス漏えい箇所をカメラ画像で可視化できるJFEアドバンテック製「エアリークビューアー」のテスト販売を4月に開始した。
水素は赤外線などの吸収波長を持たないため、赤外線式ガス可視化カメラでは捉えられなかった。そのため、地上から離れた場所での検知は難しかった。
エアリークビューアーはハンディタイプのガス漏えい検知器で、配管などからガスが大気中に漏えいする際に発する噴出音を超音波センサーで検知する。音圧レベルの高い箇所が画面上に色付け表示され、漏えい箇所がわかるようになっている。架空配管など近づきにくい箇所でも、10㍍程度までガス漏えいを発見することができる。
福島県浪江町では、4・5㍍の高さに設置したパイプラインで水素の輸送実証が行われており、この実証実験設備の点検用にエアリークビューアーが採用されている。新コスモス電機は、今後も水素の実証設備やコンビナートなど向けに提案を進めていく考えだ。
【利用拡大で前進、アンモニア】
●既存サプライチェーン生かす発電、船舶用途での期待大
アンモニアは、水素と同様、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないカーボンニュートラル(CN)な燃料として期待されている。現在の用途のほとんどは農業用肥料の原料で世界的に流通しており、燃料利用としての実績はこれからだ。経済産業省は有力な水素キャリアの一つとして、水素とセットで支援策等を検討中だ。ここではクリーン燃料アンモニア協会(CFAA)の村木茂会長に話を聞いた。あわせて、INPEXの国産天然ガスを使ったブルー水素・アンモニア製造・利用一貫実証も紹介する。
――まず、アンモニアの特性は。
直接燃焼ができ、既存の燃料と置き換えが可能な、燃焼時にCO2を排出しない燃料だということ。現在は、主に天然ガスを原料にしている。将来的には再生可能エネルギー由来の水素を原料にしたCO2フリー燃料の「グリーンアンモニア」が増えそうだ。
現在でも大量に取引されているのでコスト構造がよく知られている。LPガスと同様にマイナス33度で液化できるので大型のLPガスタンカーで輸送できる。貯蔵タンクも既存のLPガスタンクを表面処理などすれば流用できる。長期保存可能で、貯蔵も制約が厳しくない10気圧の圧力タンクが使えるため、LNGのように分散需要にも対応できる。
世界的に安全に利用するためのガイドラインが整備されていることも利用拡大のハードルを下げられる要因だ。
また、以前から言われているように水素のキャリアとしても、液体水素やMCH(メチルシクロヘキサン)と比べ、体積当たりの水素含有量が最も多く、大規模な海上輸送手段として優れている。
――6月に水素基本戦略が改定された。
同戦略は、アンモニアを単なる水素キャリアとしてだけでなく、直接燃焼させる次世代燃料・原料として、水素と並ぶものとして位置付けた。水素・アンモニア合計の2030年度の利用目標は年間300万㌧としている。両者合わせた今の国内需要は年間200万㌧なので、追加的需要は100万㌧。このうちアンモニアは過半を占めるだろう。アンモニアは既にグローバルなサプライチェーンが構築されているという点が強みだ。
●製造と利用の現状
――アンモニアの生産量の現状や今後は。
国内需要は現在年間100万㌧。主に、化学品のほか、発電所の排ガス脱硝用や肥料用に利用されている。海外製造品が2割を占めており、その大部分は化学品用だ。
世界的需要は約1億8千万㌧とされ、国際的に流通しているのは、そのうち約10%の1800万~2千万㌧だ。
アンモニアの生産国は、中東や米国、ロシアなど原料の天然ガスが豊富にある国だ。燃料用途としては、こうした国の天然ガスを原料にしているが製造時のCO2を分離・貯蔵する「ブルーアンモニア」がまず活用されるだろう。米国やサウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)では燃料としての需要拡大を見込んだ、ブルーアンモニア製造の大規模プロジェクトが進められている。米国では日本企業がイコールパートナーを組む年産100万㌧クラスのプロジェクトが数件あり、サウジでは30年までに年産1200万㌧のプロジェクトが進んでいる。
豪州やチリ、インドなどでは、再エネ資源が潤沢なため、グリーン水素やグリーンアンモニア生産のポテンシャルが高い。水素の場合は、大規模サプライチェーン構築にはまだ時間がかかる。こうした国からは、アンモニアの形で輸入・利用することが現実的だ。
――コストはどうか。
国が示した水素・アンモニアの「政策ロードマップ」では、日本着の水素のコスト目標を「30年に1ノルマル立方㍍当たり30円」としている。アンモニアは水素換算で同10円代後半、20円を切る辺りが目標。そのまま利用しても安いが、私たちはアンモニアから水素への改質(クラッキング)を5円以下で実現することを目指している。他の輸送方法よりも安く水素を国内導入できるだろう
――国内のアンモニア受入基地やサプライチェーン構築の状況は。
現在、カーボンニュートラルポート(CNP=GHG排出実質ゼロを目指す港湾)と連携したアンモニアハブ基地が全国4カ所5拠点で検討が進められている。茨城県は「いばらきカーボンニュートラル産業拠点創出推進協議会(会長=大井川和彦茨城県知事)」の下に、地域の産業界を巻き込む形で「アンモニアサプライチェーン構築・利用ワーキンググループ」を設置し、鹿島港や茨城港常陸那珂港区のハブ基地化の検討を開始した。
中部圏では愛知県・岐阜県・三重県の3県が「中部圏水素・アンモニア社会実装推進会議(会長=大村秀章愛知県知事)」で、サプライチェーンビジョンを策定した。碧南火力発電所(愛知県碧南市)でのアンモニア需要などを含め、30年に年間150万㌧の需要目標を掲げている。
大阪では、関西電力と三井物産、三井化学、IHIが大阪の臨海工業地域(泉北エリア)を対象に、水素・アンモニアサプライチェーンの構築に向けた検討を始めた。
山口県周南市・周南コンビナートでは出光興産、トクヤマ、東ソー、日本ゼオン、丸紅などがアンモニア供給拠点整備の基本検討を開始した。愛媛県今治市・波方ターミナルでは、四国電力、太陽石油、大陽日酸、マツダ、三菱商事が「波方ターミナルを拠点とした燃料アンモニア導入・利活用協議会」を今年4月に設置し、クリーンエネルギー供給拠点化に向けた検討を行っている。
周南と波方ではLPガスタンクをアンモニア貯蔵に転用することを想定する。参加企業は自家発電等をアンモニアなど炭素集約度が低い燃料に切り替えることで、脱炭素社会でのビジネスに対応できるようにしていく。
●広がる利用範囲
――発電利用については。
21年に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、30年度の電源構成の約1%を水素・アンモニアで賄うと明記している。その目標達成を目指し、JERAは来年3月から、碧南火力発電所で石炭火力にアンモニア20%を混焼させる実証を開始する。石炭火力への混焼は、あくまで過渡期の技術。今後、アンモニア用の大規模なタービンが実用化されれば、アンモニア専焼発電が増えていくと考えている。
――船舶燃料への利用はどうか。
7月にIMO(国際海事機関)が船舶から排出される温暖効果化ガス(GHG)を50年までに実質ゼロにする目標を掲げた。これまでの50%削減目標を大幅に引き上げた。国内では、日本郵船等が24年までに内航船(タグボート)用のアンモニア燃料エンジンを完成させ、26年までに外航船用の大型エンジン(アンモニア80%混焼)を完成させる予定だ。
JERAや日本郵船などは27年以降、アンモニアの輸送を、アンモニア燃料船で行う計画を検討している。
アンモニア燃料船の安全性への対応については、船会社や造船会社が協議をしている。エンジンルームに人が入らない「リモートオペレーション」を基本とする。エンジンルームに入らなければならない場合も、防具や強制排気、ウォーターシャワーなど複合的な安全対策を施すことを検討している。
「安全」だけでなく、「安心」も大事だ。船舶だけでなく、アンモニア全般に言えることだが、使用用途が広がるのでより多くの市民を対象にした、安全性の理解促進やリスクコミュニケーションにも力を入れていきたいと考えている。
――日本が強みを持つアンモニアの技術は。
燃焼技術が挙げられるだろう。三菱重工業とIHIが世界をリードしている。三菱重工は中型の4万㌔㍗級のアンモニア直接燃焼タービンを開発中だ。大型の40万㌔㍗タービンの開発も進めている。アンモニアをタービン排熱によってクラッキングして出てきた水素を燃焼させる技術だ。
IHIは、2千㌔㍗級のアンモニア専焼タービンの実証を昨年実施しており、25年までに実用化するとしている。さらに4万~30万㌔㍗級の専焼タービンを30年までに実用化することを計画している。
工業炉の開発も日本が先行している。AGCと大陽日酸、東北大学、産業技術総合研究所は6月にガラス溶解炉の実証に成功している。AGCは26年以降にアンモニアを使ったガラス溶解炉の本格導入を検討している。大陽日酸では他の工業炉への展開も検討している。
●アンモニアの真価
――改めてアンモニアへの期待は。
アンモニアを持続的に利用するには、LNGのように需要側による長期のコミットメントが必要だ。7月に三井物産は世界最大のアンモニアメーカー・米国のCFインダストリーと米国メキシコ湾でのクリーンアンモニア生産の共同開発契約を締結した。また、JERAも1月にCFインダストリーとブルーアンモニア製造の共同開発について協業するための覚書を交わしている。10月には、三菱商事とスイスのプロマン社が米国でのクリーンアンモニア製造の検討調査について協力覚書を締結した。
いずれも日本はイコールパートナーシップの下、アンモニアを調達できそうだ。LNGプロジェクトではできなかったが、これからはコスト構造の議論もできるようになる。これは日本におけるエネルギー・サプライチェーン構築では初めてのことと考えている。これがアンモニアの真価だ。
また、米国のインフレ抑制法(IRA)による支援も活用すれば、日本の資金が海外に一方的に流れることを防ぎ適切な価格でエネルギーを調達できると確信している。
◇柏崎市で一貫製造・利用ブルー水素・アンモニアの実証/INPEX
INPEXは新潟県柏崎市で、国内で初となるブルー水素・アンモニアの製造・利用を一貫して行う実証試験を、2025年夏を目途に開始する。今夏にはプラントの建設が開始され、年明けには水素・アンモニア製造時に排出される二酸化炭素(CO2)を地下に封入するための圧入井の掘削も始める。
この実証は、生産を終了している同社の東柏崎ガス田(枯渇ガス田)がある平井地区で実施している。以前はガスの生産井と生産設備、コンデンセートタンクなどがあった場所だ。ここで、長岡市で生産している同社の南長岡ガス田の天然ガスを原料に、水素・アンモニアを製造する。製造に伴うCO2は東柏崎ガス田の貯留層に圧入してEGR(ガス増進回収)を実施して、ガス田内に残った天然ガスを回収して、プラントで利用する可能性も検討する。
このプラントの核となる設備は、①外部からの熱供給を必要としないATR(自己熱改質法)を使った水素製造装置②水素製造時に発生するCO2の分離・回収装置③CO2の地下への圧入装置④低温低圧でアンモニアを製造する装置――だ。この構成で年間700㌧規模の水素製造を目指す。そのうち600㌧の水素は敷地内にある水素専焼のガスエンジンで発電(出力千㌔㍗)して電力網に流す予定。また、100㌧の水素から生産されるアンモニアは販売される予定だ。いずれも電力やアンモニアの売り先はまだ決まっていない。
なお、EGRの実証では、CO2は年間約5500㌧の圧入を予定している。
同実証のリーダーを務める古座野洋志INPEX水素・CCUS事業開発本部技術開発ユニット副ジェネラルマネージャーは「この柏崎での試みで経験を積んでノウハウを取得し、今後、県内でブルー水素の商業事業を立ち上げていきたいと考えている。INPEXVISION@2022(長期戦略と中期経営計画)にあるように、当社では30年ごろには海外事業も含め年間10万㌧の水素・アンモニアを取り扱っていきたい」と話す。また、アンモニアについても「クリーンなアンモニア事業は、参入先の候補、対象事業の候補を現在検討している最中だ」と語る。
【水素を発電用燃料に活用】
●高砂水素パーク本格稼働、一気通貫の開発で競争力強化/三菱重工
三菱重工業は水素だきガスタービンの開発に注力し、脱炭素社会においてもトップシェアを目指す。同社は9月、ガスタービン生産拠点の高砂製作所(兵庫県高砂市)に、「高砂水素パーク」を整備し、本格稼働を開始した。水素の製造・貯蔵から水素燃料の発電まで、設計・製造・実証を一気通貫で行える開発・実証拠点を構え、さらなる競争力強化を図る。
まずは、水素30%(体積比)混焼発電の実証試験を年内に行う。高砂製作所内の実証設備複合サイクル発電所(第二T地点)のガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)式大型ガスタービン(56万6千㌔㍗級)を使い、水素と空気の混合気を燃焼器内に噴射する予混合燃焼により、燃焼器内への水の噴射を不要とし、窒素酸化物(NOχ)抑制と高効率発電の両立を実現する。来年は水素混焼率を50%に高めて試験を行う予定。2025年に水素混焼大型ガスタービンの商用化を目指す。
水素専焼発電の開発にも取り組む。微小ノズルから水素を噴射して逆火を防ぐマルチクラスターと呼ばれる燃焼方式を用いる。来年、中小型ガスタービン(4万㌔㍗級)を使って実証試験を行う。中小型ガスタービンは25年に、大型ガスタービンは30年までに水素専焼の商用化を目指す。
大型ガスタービンでの水素専焼の場合、毎時約30㌧の水素を消費する。水素発電は大規模な水素需要を創出し、水素コスト削減を促進する役割も担う。
高砂水素パークでは、発電用に使う大量の水素を効率的に製造する技術開発にも取り組んでいる。同社が出資しているノルウェーのハイドロジェンプロ社によるアルカリ水電解装置を設置し、今秋から稼働させた。水素製造能力は、稼働中のアルカリ水電解装置としては世界最大規模の毎時1100ノルマル立方㍍。長期稼働による信頼性を確認する。
SOFC(固体酸化物形燃料電池)とは逆反応で水素を効率的に製造するSOEC(固体酸化物形電解セル)の実証機も来年設置する予定。円筒セルを400本程度束ねたカートリッジを4本並べる400㌔㍗級デモ機で実証を行う。26年ごろ5千㌔㍗級までスケールアップさせる。
このほか、アルカリ水電解よりもコンパクト化が可能なアニオン交換膜(AEM)水電解や、メタンを水素と固体炭素に熱分解するターコイズ水素技術など、次世代技術の実証も順次行う。
製造した水素はボンベで貯蔵する。貯蔵容量10㌔㌘のボンベを現在の350本から来年は1050本(約11㌧)まで増やす。
シニアフェローの東澤隆司エナジードメインGTCC事業部長は、「第二T地点のような自前の発電設備を持ち、ガスタービンの設計・製造・実証を一気通貫で行えるのは当社だけ。信頼性の高さが強みとなり、ガスタービンでのトップシェアにつながっている。(高砂水素パークを整備し)水素ガスタービンについても同様に高い信頼性を確保できる」と語った。
●コージェネや燃料電池の実証、ヤンマークリーンエナジーサイト/ヤンマー
ヤンマーグループは、船舶用の水素燃料電池システムの商品化に続き、発電分野でも水素の活用に取り組んでいる。ヤンマーエネルギーシステムは9月、同社の岡山試験センター(岡山市)に実証施設「ヤンマークリーンエナジーサイト」を開設した。開発中の燃料電池発電システムや、都市ガス・水素混焼コージェネレーションシステム、水素製造装置などを設置。発電効率や耐久性などを確認し、メンテナンス性、メンテナンスコストなどを検証する。顧客のニーズに応じて各機器を組み合わせ、低・脱炭素化に寄与する「カーボンニュートラル(CN)パッケージ」として提案することを目指す。顧客などに同サイトについて説明するためのユニットハウスも設け、脱炭素化に貢献する水素関連の技術ラインアップをPRしていく。
燃料電池発電システム(発電出力35㌔㍗)は、トヨタ自動車製の燃料電池スタックを用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)モノジェネタイプで、コージェネ仕様の開発も視野に入れる。年度内に開発を完了させ2024年度の販売開始を目指す。
水素混焼マイクロコージェネ(発電出力35㌔㍗)は、既存の都市ガス仕様のマイクロコージェネの部品を一部交換するだけで約20%の水素混焼を可能にする。商品化時期は未定としている。
輸入販売を予定している独2G(ツージー)社製の水素専焼・混焼エンジンコージェネ(110㌔㍗)も設置した。
これら実証機で使う水素は、カードルで岩谷産業から供給を受けるほか、独エナプター社製のAEM水電解装置(水素製造能力毎時14ノルマル立方㍍)も設置し、同サイトで製造も行う。最大貯蔵量235ノルマル立方㍍の水素貯蔵タンクも設置した。混焼コージェネでは、岡山ガスが供給するCN都市ガスを活用する。熱と電気の需要に応じてヤンマーエネルギーマネジメントシステム(Y―EMS)でこれらの機器を最適制御する実証試験も行う計画だ。
●マンションに5㌔㍗燃料電池、CN実現に効果的活用を検証/長谷工
長谷工コーポレーションは、長谷工グループで推進している賃貸マンションプロジェクト「サステナブランシェ本行徳」(千葉県市川市)に、発電出力5㌔㍗のパナソニック製純水素型燃料電池(固体高分子形燃料電池=PEFC)「H2KIBOU」1台(モノジェネタイプ)を設置し、発電した電気を同マンションに供給する実証実験を10月から開始した。H2KIBOUがマンションに設置されるのは初めて。カーボンニュートラル(CN)時代のマンションでの水素の活用を見据え、燃料電池の効果的な活用方法を探る。
サステナブランシェ本行徳は、既存マンションの価値向上と住まいの新たな価値創造に向けた研究開発の推進を図るため、長谷工グループが既存企業社宅をリノベーションし、建物運用時の二酸化炭素排出量実質ゼロを実現する国内初の賃貸マンションとして完成させた。非化石証書付き電力を調達するほか、太陽光発電(出力計20㌔㍗)や燃料電池の電気を活用する。
H2KIBOUは、天候に左右されずに安定した発電ができ、業界最高の発電効率56%を実現する。約1分で起動でき、ピークカット運転にも利用が可能。10台を連携させて1ユニットとし、出力を拡大させることもできる。停電対応ユニット(抵抗器ユニットと無停電電源装置)を接続すれば、停電時でも発電を継続し、最大2・5㌔ボルトアンペアの電力を120時間使える。
同マンションには岩谷産業がボンベで水素を供給。7立方㍍のボンベ10本を設置し、24時間発電できる。実証では、太陽光発電の発電出力が小さく同マンションの電力負荷が大きい時にH2KIBOUを稼働させてデータを取り、電力ピークカットや省エネに寄与する効果的な運転を探る。
長谷工コーポレーションの若林徹執行役員は、「将来、水素インフラが整備される時のことを考え、マンションでどう使えるのかを今から検証していく」と語った。今後は、マンションでの純水素型燃料電池の活用範囲の拡大を図るため、このプロジェクトで得られる知見を生かし、水素の活用方法についての研究・実証を進める方針だ。
●液体水素用仕切弁を開発、高圧化・大口径化など拡充図る/平田バルブ工業
平田バルブ工業は、2050年カーボンニュートラル(CN)に向けた液体水素の需要拡大を見据え、液体水素プロセスライン用の仕切弁を開発した。液体水素を用いた漏えい試験を行い、マイナス253度の極低温でも機能する実用可能な締切力を確認したとしている。今後、高圧化・大口径化を進めるほか、逆止弁の開発に取り組むなど製品ラインアップの拡充を図るとともに、供給体制を整備していく。
同社は、LNG用の極低温領域バルブを開発し、東京ガスの根岸LNG基地(横浜市)をはじめ、国内の多くのLNG関連施設に納入してきた実績を持つ。LNG用バルブの開発で培った技術・知見を生かし、液体水素プロセスライン用の玉形弁も開発。宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センターのロケット燃料供給設備に採用され、現在も活用されている。
水素が発電用燃料として大量に扱われる時代を見据え、今後整備されていく液化水素の出荷・受入基地に対し、新開発の液体水素プロセスライン用仕切弁を積極的に提案していく。