エネルギーは、脱炭素社会構築、ウクライナやガザでの戦争影響による供給面、価格面のリスクへの対応、激甚化、頻発化している災害に対する強じん性向上など、多様な価値の提供を求められている。その中で、化石燃料の中で最もクリーンな天然ガスを使い、高効率に発電し熱も使えるガスコージェネレーションが多角的な価値を持つ機器として注目されている。2024年のコージェネ特集では、エネルギー政策上の位置付けや日本ガス協会の取り組み、先進事例などを紹介する。
◇エネ・環境政策上の意義/省エネでエネ高騰に耐性
国際紛争の長期化等によるエネルギー価格高止まりの懸念から「省エネ」への期待が高まっている。政府は、昨年11月に閣議決定した「総合経済対策」で省エネ等を推進し、エネルギー価格高騰を含む輸入インフレへの耐性を強化する方針を打ち出した。経済産業省は2023年度補正予算に盛り込んだ「省エネ支援パッケージ」で、コージェネレーションを含む事業者の省エネ投資の促進策を明確にした。資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部政策課熱電併給推進室の赤松徹也課長補佐に話を聞いた。
赤松補佐は、コージェネのエネルギー政策上の位置付けについて①エネルギーの効率的な利用②電力供給システムへの貢献③水素・アンモニア・e―メタン(e―methane)社会実装時の水素等の効率的利用による脱炭素化への貢献――などを期待しているという。
①の省エネについては、「電気料金・ガス料金などが高止まりしている。いかに輸入燃料価格の高騰に対して強い経済構造を作るかがエネルギー政策的にも経済政策的にも大きな課題」と指摘する。省エネ支援パッケージは、事業者向けには「省エネ設備への更新支援」と「省エネ診断」がある。前者の柱が省エネ補助金で、今後3年間で約7千億円規模の支援を行う。「脱炭素につながる電化・燃料転換」を促進する類型も新設した。高効率コージェネも省エネ補助金の対象施設となる。公募期間は3月27日~4月22日。家庭向けについては、国土交通省、環境省と連携した住宅省エネ支援の一環としてエネファームも補助。赤松補佐は「産業部門と家庭の両方で、コージェネを使って省エネを進めていきたい」と意欲を示す。
②の電力システムへの貢献としては、▽調整力▽レジリエンス(強じん性)▽エネルギーの面的利用▽地産地消――という点での期待があるという。エネルギー政策の柱である「再生可能エネルギー主力電源化」に向け、太陽光発電、風力発電なども含め再エネの増加は今後も見込まれる。また地産地消で再エネを活用する動きもさかんになりそうだ。そこで再エネの出力変動を念頭に置いた調整力としてコージェネの役割があるという。
「コージェネなどは電力需給調整市場を通じて、調整力として活用されることが期待される。その際、いかに再エネを優先して消費するかという観点で、コージェネが最適な形で導入できるかどうかがポイントだ」と指摘する。デマンドレスポンス(DR)などの技術の進展で、今後拡大が見込まれる分野だ。
18年の北海道胆振東部地震では官民複合施設「さっぽろ創世スクエア」のコージェネが帰宅困難者等に電気を供給し、19年9月の台風15号の影響で起きた停電の際には、千葉県睦沢町にある「むつざわスマートウェルネスタウン」では、コージェネで地域に電気と熱を供給した。赤松補佐は「災害時のレジリエンス向上に向けて、コージェネの役割は今後も変わらない」という。
③の水素・アンモニア・e―メタンについては、「脱炭素社会やカーボンニュートラル(CN)社会を目指すなかで、水素などを早急に社会実装し、それらの燃料の価格を下げていくための取り組みは、今国会に提出された『水素社会推進法案』等を通じて行っていく。その際にそれらの燃料を利用する機器を普及させるという観点も必要になってくる。CN型の燃料を導入していく上でも、それらを効率的に利用したり、それらの機器を使って建物や地域の強じん性を上げたり、そうした取り組みは引き続き必要で、新しい燃料が普及していった先にもコージェネには役割がある」と指摘している。
【コージェネ特集2024】エネ庁福田光紀ガス市場整備室長に聞く/GX移行の代表的機器都市ガスCN化の議論本格化
省エネや国土強じん化など多様な価値を持つコージェネレーションを、エネルギー供給面から支えるのが都市ガスだ。都市ガスは、政府のGX(グリーントランスフォーメーション)推進の方向性にしたがって、「都市ガスのカーボンニュートラル(CN)化」が検討されている。資源エネルギー庁の福田光紀ガス市場整備室長に話を聞いた。
◇◇◇◇◇
――エネルギー政策あるいはGX政策におけるガスコージェネレーションの位置付けは。
「脱炭素成長型経済構造移行推進戦略」(GX経済移行戦略)は、2050年CN、エネルギーの安定供給を確保しながら、日本の経済成長も同時達成していく考え方を示している。その中で、天然ガスの重要性についても明記している。
天然ガスは化石燃料の中で二酸化炭素(CO2)の排出量が最も低く、CN化に向けたトランジション期(移行期)に、産業部門の電化が難しい領域の脱炭素化の役割が期待されている。特に石炭等からの天然ガス転換の必要性が高い。天然ガス化に当たり、高効率な利用機器も導入促進すべきで、コージェネはそうした高効率機器の代表選手と言える。
――日本の温室効果ガス排出量は「50年CN化」に向け着実に下がっている。省エネが功を奏しているのではないか。
排出量低減の要因は政府全体で検証し、次に生かしていくものだと思うが、公表データを見ると、着実に対策は進んでいるように見える。ただ、ここから一歩一歩、さらに対策を進めなければならない。今CN化できていない分野でも投資を促していかなければならない。
当庁で進めている省エネの補助金などにより、民間企業等の高効率設備の導入を後押ししたい。特に旧型で非効率な設備を使い続けている事業者の方々には、コスト面の改善にもつながる省エネ投資を継続的に進めていただきたい。さらに石炭を使っている事業者の方々には、足元だけでなく長期的に見て、天然ガスを入れることで将来のCN化につなげられることを知っていただくことも大事だと思っている。このような機会を積極的につくっていきたい。
――「都市ガスのCN化」を、総合資源エネルギー調査会のガス事業制度検討ワーキンググループで検討中だ。趣旨と見通しについて。
CN化の全体における「都市ガスの担うべき役割」がそもそもの論点だ。需要家がCN化を進めるために、都市ガスも非化石燃料化、脱炭素化していく必要がある。そのために必要な仕組みをガスWGで議論している状況だ。
都市ガスCN化の手段には、例えばバイオガスやe―methane(e―メタン)などがあるが、それを例えば国内で製造するのか、海外から持ってくるのか、その製造手法、供給体制はどうなのかを踏まえ、最適な形で環境を整備していくことが重要で、そのために政策的に必要なものを議論している。
――ロシアのウクライナ侵攻から3年目になった。日本の天然ガス調達についても影響を受けたことで、さまざまな対策を行った。
天然ガスの安定供給がやはり大事だ。実態として日本では天然ガスの大部分を海外から輸入しているので、安定調達のための体制づくりは重要だ。資源エネルギー庁として、供給源の多角化や産ガス国との資源外交などを通じた関係強化などを進めている。
一昨年、ガス事業法を改正し、さまざまな体制、仕組みをつくった。経済安全保障推進法に基づく「戦略的余剰LNG」確保にも動いている。これらを一つ一つ積み上げて、官民で天然ガスの安定供給の体制構築を進めていきたい。
――政府の「防災・減災、国土強じん化のための5カ年加速化対策」にも位置付けられている。
20年に策定された5カ年加速化対策において、災害から国民を守る対策として、避難所等に災害にも対応できるコージェネ等の設備を導入するための費用を一部補助する事業が位置づけられている。
自治体と連携して、災害時に避難所等として活用可能なホテルや商業施設などの民間施設、また、学校などに対して停電対応型コージェネやGHPなどの導入を支援するもので、23年度補正予算および24年度予算案において「災害時の強じん性向上に資する天然ガス利用設備導入支援事業費補助金」を計上し、5カ年加速化対策の「25年度までに780カ所」目標の達成に向け着実に導入が進められている。
停電時でも、ガスの供給が継続されていれば、コージェネを設置している場所で電気と熱が両方使える。複数のエネルギーを確保しておくことで、災害時に避難所等で生活に必要なエネルギーが確保できることが非常に重要である。ガス事業者、自治体、民間事業者などと連携して、施策を周知していきたい。
――コージェネ普及に関するガス事業者への期待は。
ガス事業者は地域に根差した産業の重要なプレーヤーだと考えている。すでに地域のニーズに応じたさまざまなサービスが展開されており、もっと多くのことができる可能性を秘めているとの期待もある。エネルギーの安定供給の確保、脱炭素も含めて持っておられるノウハウを地域で展開してもらえると思っている。
自治体がコージェネを設置しつつ、「ZEB(ネットゼロエネルギービル)Ready」の認定を受け、脱炭素化と強じん化を両立させる取組を進めているとの事例も聞いているが、こうした取り組みを含め、ガス事業者と地域の自治体や企業が連携することで、よりさまざまな取り組みが進む可能性があり、大いに期待している。
――コージェネのような分散型電源は、再生可能エネルギーとの親和性が高い。
ガス事業者に対しては、再エネ発電の立地や運営という観点からの期待、コージェネなどの分散型エネルギーの推進や運営という意味の期待もある。また、今後は都市ガスを供給している事業者だからこそ持つ、地域のバイオガス活用や、エネルギー機器運用のノウハウを生かした省エネサポートなど活躍の領域を広げてほしい。その中にコージェネもしっかり取り入れて、地域での最適な活用を推進していただきたい。
コージェネレーションガスエンジン、ガスタービン、燃料電池などで発電し、排熱も活用して高い総合エネルギー効率を実現するシステム。総合効率は75~80%で最新鋭大型火力発電所よりも高い。主力の燃料は都市ガス(天然ガス)で、化石燃料の中でCO2排出量が最も少なく排ガスがクリーンという環境面の優位性などを背景に拡大中だ。
【コージェネ特集2024】ガスのレジリエンス性に注目/日本ガス協会清幹広・普及部長インタビュー
◇産業・業務とも伸びしろ、工業団地版スマエネ事例も
日本ガス協会の清幹広・普及部長はガスエネルギー新聞のインタビューに応じ、コージェネレーションシステム普及の意義や最近の市場動向などについて語った。風水害の激甚化などを背景に、ガスシステムのレジリエンス性への注目が高まっていると指摘。災害に強いまちづくりに貢献するコージェネの意義を強調した。新たな動きとして工業団地版スマエネやガスZEBなどを挙げ、産業用・業務用とも伸びしろは大きいと述べた。
――あらためてコージェネ普及の意義を。
電気と熱の両方を取り出せることによる省エネ・省CO2効果や節電効果、省コスト効果に加え、最近注目が高まっているのが、ガスシステムのレジリエンス性の高さだ。背景にはガス導管の耐震化率向上に加え、風水害の激甚化がある。
2018年の北海道胆振東部地震の大停電では、札幌市中心部の複合施設「さっぽろ創世スクエア」のコージェネが電力と熱の供給を維持し、約530人もの帰宅困難者や観光客を受け入れた。19年の台風15号による千葉県の長期停電では、睦沢町の「むつざわスマートウェルネスタウン」のコージェネが道の駅と公営賃貸住宅への電気の供給を維持したほか、周辺住民に温水シャワーを無料で提供、800人以上が利用した。千葉市の病院では、電子カルテ用のサーバーと空調がコージェネによって稼働を維持した。こうした事例が広く認知されるようになってきた。
――エネルギー政策における位置付けは。
現行の第6次エネルギー基本計画には、コージェネの価値として省エネ、(電気の需給バランスを維持するための)調整力、レジリエンスが明記されている。今年から議論が始まる第7次基本計画では、カーボンニュートラル社会の実現に向けて供給側におけるe―メタンの位置付けが重要になるが、需要側の設備であるコージェネの基本的な価値は変わらないはずだ。産業用・業務用とも、伸びしろは大きい。
――最近の新たな傾向は。
産業用では、複数の工場・事業場が連携して大型コージェネと自営線・熱導管を整備し、最適制御を行う「工業団地版スマエネ」の事例が少しずつ出てきている。熱と電気のバランスや稼働時間が異なる複数の工場の需要を束ねることで、より高効率な大型コージェネの導入が可能になり、それをより高い稼働率で運転できるメリットがある。
先駆的な事例となったのは宇都宮市の清原工業団地スマエネ事業だ。事業所単独では難しい約20%の省エネと省CO2を実現した。この事業は20年コージェネ大賞の理事長賞、21年省エネ大賞の経済産業大臣賞も受賞している。
スマエネは、もともと都市部の地域冷暖房の高度化として育ってきた技術だが、清原工業団地が高い評価を受けたこともあり、群馬県安中市の信越化学工業群馬事業所や、東京都瑞穂町と埼玉県入間市にまたがる瑞穂町地域スマートエネルギーなど、産業用でも事例が出てきている。
もう一つの話題は政府の新たな補助制度「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」だ。製造業からのCO2排出の7割を占める鉄、化学、紙、セメント等の原・燃料転換を支援するもので、石炭から天然ガスへの転換も支援対象となる。
こうした工場はガス導管がない郊外に立地していたり、石炭価格が安いこともあって、これまで天然ガス転換が難しかった。新たな補助制度も活用して、天然ガス転換とコージェネ導入によるエネルギー使用合理化を同時に実現する提案を進めていきたい。まずはこうした取り組みでCO2の大幅削減を図り、最終的には都市ガス原料のe―メタン化でカーボンニュートラルを実現していく。
◇「ガスZEB」全国で拡大
――業務用の話題は。
いま注目されているのは、快適な室内環境を実現しながら建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指したZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)だ。日本ガス協会では、停電対応型GHPやガスコージェネなどの都市ガスシステムを活用した「ガスZEB」を提案している。省エネ性能は電気式の空調を採用したZEBに引けを取らない上、災害時に外部からの電力供給が途絶した場合も、都市ガスが供給されていれば、停電対応型機器で最低限の電気や熱を確保でき、建物の機能維持に貢献する。
自治体の庁舎をはじめ、大型商業施設や病院、学校など全国で既に数十件のガスZEB事例があり、コージェネを採用している物件も多い。ガス協会ホームページの「ガスZEBポータル」で事例を紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。
小型コージェネ「ジェネライト」に関しては、出荷台数の8割で停電対応型が採用されている。災害や停電のリスクに対する社会の意識は確実に高まっている。まちのシンボルになるような大きな建物にコージェネが備えられていて、いざというときには逃げ込めるとしたら、そこで働く人たちや住民の皆さんはどれほど心強いか。そういう建物は「まちの価値」を高めることにもつながると思う。
1月末に開催されたヒーバック&アールジャパン2024(第43回冷凍・空調・暖房展)では、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスと共同でガス協会も6年ぶりに出展し、ガスZEBをPRした。来場者からは「ガスでもZEBができるとは知らなかったが、災害に強いガスのメリットがよく分かった。事例も全国にあるということなので、自分たちも検討してみたい」といった声が聞かれた。こうした活動を通じて、ガスZEBの普及を後押ししていきたい。
【コージェネ特集2024】政府も普及を後押し多様な補助金、税制優遇も
脱炭素社会への移行やレジリエンス強化に貢献するコージェネレーションシステムの普及に向けて、政府も補助金や税制優遇など、さまざまな支援策を用意している。代表的なものを紹介しよう。
経済産業省は2024年度当初予算で「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」を創設する。GX経済移行債を活用し、鉄、化学、紙、セメント等の排出削減が困難な産業における原・燃料転換などのCO2削減事業を支援する。石炭等を燃料とする自家発電設備やボイラー等の天然ガス転換も支援対象となり、大規模コージェネレーションシステムの導入に活用できる。補助率は3分の1等。
24年度当初予算額は327億円を計上。28年度までの5カ年事業で、5年間の支援見込み額は総額4844億円とされている。これを呼び水として今後10年間で官民投資8兆円、国内排出削減4千万㌧以上を目指している。
「災害時の強じん性向上に資する天然ガス利用設備導入支援事業費補助金」(強じん化補助金)は、災害時にも対応可能な停電対応型のガス空調やコージェネなどの導入を支援する。支援対象は、中圧導管または耐震性を向上させた低圧導管でガス供給を受けており、災害時に避難所や防災拠点となる施設など。23年度補正予算で13億円、24年度当初予算で8億円の計21億円が計上されている。
補助率は、大都市・地震エリアの中圧供給施設が2分の1、それ以外の中圧・低圧供給施設は3分の1。23年度補正で59カ所、24年度当初で44カ所の設備導入を目指す。
22年度第2次補正予算に続き23年度補正でも措置された「省エネ支援策パッケージ」は、全ての類型で事業期間が複数年化され、複数年にわたる事業を切れ目なく支援できるようになった。3年間で総額5千億円とされた予算規模も、経済対策として7千億円に拡充。また、工場・事業場全体で大幅な省エネを図る類型1「工場・事業場型」、リストから選択する機器への設備更新を補助する類型3「設備単位型」に加え、より低炭素な燃料への転換や電化を伴う機器への設備更新を補助する類型2「電化・燃転型」が新設された。省エネ機器への更新を支援することで、エネルギーコスト高への対応とカーボンニュートラル対応を同時に進める。
類型1では先進・オーダーメード型コージェネや工業炉など、類型2では燃料転換を伴う高効率なコージェネや工業炉など、類型3では高効率なコージェネやガス空調が対象になる。類型1の補助率は中小企業が2分の1(先進設備の場合は3分の2)、大企業が3分の1(同2分の1)で、補助上限は各年度15億円(非化石転換要件を満たす場合は同20億円)。類型2の補助率は2分の1、補助上限額は3億円(電化機器の場合は5億円)。類型3の補助率は3分の1、補助上限額は1億円。一部の類型ではGXリーグへの参画などが要件となる見込みだ。
環境省の「工場・事業場における先導的な脱炭素化取り組み推進事業」(SHIFT事業)は、23年度補正予算と24年度当初予算の合計で約73億円が計上された。CO2削減目標および計画を策定し、設備更新と電化・燃料転換と運用改善を組み合わせて実施する先導的な脱炭素化の取り組みを支援する。補助対象設備は空調設備、給湯器、コージェネ、冷凍冷蔵機器、エネルギー管理システムなど。
このうち「CO2削減計画策定支援」は中小企業等が対象で補助率は4分の3、補助上限は100万円(CO2排出を見える化する「DX型計画」は200万円)。「省CO2型設備更新支援」は、標準事業が補助率3分の1で補助上限1億円、大規模電化・燃料転換事業が補助率3分の1で補助上限5億円。中小企業事業は、CO2削減量に応じた額もしくは補助対象経費の2分の1のいずれか低い額を最大5千万円まで支援する。
また「企業間連携先進モデル支援」は、サプライチェーン全体のCO2排出削減に取り組む企業が主導して、複数のサプライヤー等の工場・事業場を対象とした削減計画の策定・設備更新・実績評価を2カ年以内で行う取り組みを支援する。補助率は、大企業が3分の1、中小企業が2分の1で、補助全体の上限は5億円。
税制優遇では「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」が用意されている。生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備を導入した企業が、炭素生産性の向上率などの要件(中小企業は3年以内に10%以上、大企業は同15%以上)を満たした場合、最大14%の税額控除(中小企業の場合。大企業は同10%)または50%の特別償却を適用できる。
対象設備はコージェネのほか工業炉やボイラーなど。措置対象となる投資額は最大500億円。当初は24年3月末までの時限措置とされていたが、28年度末まで適用期間が延長された。
【コージェネ特集2024】導入事例(1)
事業継続計画(BCP)向上やさらなる省エネを目的としたコージェネレーションシステムの導入や更新が増加している。最新の例を紹介する。
〇8千キロワットガスタービンを導入、コスト削減と省エネを両立/モメンティブ太田事業所
シリコーン関連製造の「モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン」(東京都港区)は、同社太田事業所(群馬県太田市)に8千キロワット級ガスタービンコージェネレーションシステムを導入し、2022年11月に運用を開始した。エネルギーコスト低減と省エネと二酸化炭素(CO2)削減が導入の目的だ。約15%の省エネ、さらに災害時の強じん性(レジリエンス)向上も実現する。太田都市ガスの100%子会社「太田エナジーサイエンス」(OES)が提供するエネルギーサービス(ES)を利用している。
同社は米国ニューヨーク州にグローバル本社を置く世界的化学メーカーであるモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズのグループ会社だ。同社が提供するシリコーンは、自動車やスマートフォン、電気・電子などさまざまな分野で利用される。1974年に操業を開始した太田事業所は、顧客の用途に応じて加工した約4千品種のシリコーンを生産するのが特徴だ。同事業所は定期メンテナンス期間を除き、24時間休むことなく操業している。
導入したエネルギー設備は川崎重工業製の8千キロワット級ガスタービンコージェネ「PUC80D」や追いだきボイラーなど。発電効率は33%、熱利用を含む総合効率は85%。シリコーンの製造工程では、大量の熱(蒸気)を消費する。同事業所ではコージェネの排熱と追いだきボイラーで製造した蒸気で、必要な全量を賄う。
一方、同事業所で消費する電力の65%はコージェネで発電。不足分は太田都市ガスの子会社で太田市なども出資する地域新電力「おおた電力」からの供給で賄う。
同社太田事業所MI推進部の田辺悟リーダーは「コージェネ導入により、エネルギー調達コストを約2割削減できた。ESの採用により、運転やメンテナンスなどの手間も低減できている。コージェネからのエネルギー供給により万一の際にも安心だ。エネルギーはOESとおおた電力のワンストップサービスに任せているので、それを含めるとエネルギーに関する業務は大幅に減った」と話す。
・隣接地のエネプラントから電気・蒸気を供給
同事業所では、以前は太田都市ガスが供給する都市ガスで水管ボイラーを稼働し蒸気を使用していた。太田都市ガスと東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は共同で、エネルギーコスト削減とレジリエンス向上を目的に以前からコージェネ導入提案を行っており、16年ごろから具体化していた。
東日本大震災後、電力単価が上がったことでコージェネ導入によるコストメリットが増加した上に、計画停電で、事業継続計画(BCP)の重要性が高まったことからモメンティブは、コージェネの導入を決めた。
しかし、敷地内にエネルギー設備の設置用地を確保するのが難しかったため、同工場に道路を挟んで隣接する太田都市ガスが資材置き場などに利用していた6Aガス製造所跡地に、ガスタービンなどを含むエネルギープラントを設置した。そこから公道下に新設した配管を通じて、電気と蒸気を供給する。
ESを実施するOESは、太田都市ガスがワンストップでエネルギーサービスを提供する目的で21年2月に設立した。社長は太田都市ガスの井上孝昭常務取締役だ。このES事業のほかに、太田都市ガス供給区域内の市立学校にGHPをリース提供している。
OESの井上社長は「約1万平方㍍の敷地のおよそ3分の1を使ってエネルギープラントを設置した。モメンティブ太田事業所へ熱・蒸気を送るための設備は、300Aの蒸気配管などだ。太田市の許可を得て、非開削工法で道路の地下5㍍に敷設した直径1㍍、長さ約40㍍のヒューム管2本の内部に設置した」と説明する。
モメンティブは太田事業所のコージェネ導入により、工業用需要が多い太田都市ガスでも有数の大口顧客となった。機器の所有やプラントの運営はTGESが担当する。日常点検はモメンティブが行うが、コージェネの運転管理はTGESの遠隔自動制御サービス「ヘリオネットアドバンス」を活用している。
・レジリエンス向上、瞬低対策を準備中
太田事業所では、レジリエンスをさらに向上させるため、電力の高速遮断器などの導入を進めている。系統電力の途絶や落雷などによる瞬時電圧低下(瞬低)が発生すると、度合いにもよるが、生産ラインを停止する場合がある。ラインを止めると、復旧に最悪の場合は2~3週間掛かることもあるという。
そのため、高速遮断器などで重要な負荷を切り離して、コージェネからの電力だけで稼働を継続し、生産への影響を最低限に抑える目的だ。高速遮断器は導入済みで、2~3年後の竣工を目指し、工事を進めている。
〇ZEBレディに認定、450キロワット機採用し強じん化/長崎市庁舎
昨年1月に供用開始した長崎市庁舎は、設計一次エネルギー消費量を50%以上削減する「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)Ready(レディ)」に認定されている。コージェネレーションを活用してZEBレディ化する事例はまだ少ないが、高いレベルの省エネ性と強じん性を両立させた好事例だ。自治体の庁舎は、災害時に停電等があっても災害時対応拠点となるケースが多い。長崎市庁舎は、出力450キロワットと業務用施設としては比較的大きなコージェネで非常時の電源確保に備える。多くの自治体からモデル施設の一つとして今後注目されそうだ。
長崎市の旧庁舎は、築60年以上を経て老朽化していたことから、同じく老朽化していた長崎市公会堂の解体跡地に新築することを決めた。延べ床面積約5万平方㍍で、地上19階、地下1階の建物となった。
新庁舎には、停電対応型ガスエンジンコージェネが設置された。耐震性の高い中圧ガスを敷地内に引き込み、熱源機には直接供給、敷地内では専用ガバナで低圧に減圧してそれ以外のガス機器に使っている。
コージェネから出る熱は排熱投入型吸収冷温水機(528キロワット×2台)に投入することなどで省エネ性向上に貢献。省エネ性、強じん性に加え、電力ピークカットによって契約電力低減などにも貢献している。停電時には、A重油燃料による非常用発電機と同期してコージェネが運転する。停電が長引いても、市庁舎が防災拠点として7日間は機能できるよう非常用発電とコージェネが電力供給の面で支える形だ。
同庁舎には太陽光発電20キロワットが設置されており、停電時には1階エントランスホールのコンセントなどに電気を供給する。万が一の水害への備えとして、コージェネ・受変電などの設備を設置する機械室は6階と最上階の19階に設置した。1階床下には防災備蓄倉庫も備え、大規模災害時に市民等の一時避難の受け入れを想定している。地下水利用もでき、避難時の水の確保への備えもある。
長崎市庁舎の計画・建設では、地球温暖化対策も重要なテーマとしていた。松本一樹長崎市企画財政部大型事業推進室主事は、2014年の建設基本計画策定時から「人と環境にやさしい庁舎」を目指すべき姿に位置付けていたこともあり、「市民や事業者の先頭に立って温暖化対策を率先し再生可能エネルギー導入促進、省エネ推進のシンボルとなることを目指した」と話す。
当初からZEB化を目指したわけではなく、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)での高評価を目指していた。プロポーザル公募で設計を山下設計・建友社設計・有馬建築設計事務所特定設計業務共同企業体が受注した。
建築側では外皮の工夫、Low―E複層ガラスの採用、設備側では外気導入量の適正化、照明照度の低減などを行った。1フロア当たり水平に3本の梁と3㍍間隔の柱で格子状にした構造フレームの窓は、外観的特徴を形作ると同時に、省エネ性アップにも貢献している。
照度を低減して必要に応じてタスクライトを使ってもらう工夫や、従前よりもパソコンの電力消費量や発熱が低くなっていることなどをより実態に合った計算を行うことで空調容量削減につなげた。
中澤大山下設計機械設備設計部副グループ長は「やるべきことを積み重ねて、最終的にZEBレディの認定を受けることができた」と話している。
長崎市庁舎は、2022年の新幹線開通で新しい玄関口となったJR長崎駅周辺や中華街などからアクセスがよい。中澤副グループ長は「新庁舎は新しいにぎわいが形成されつつある駅周辺エリアと、古くからのにぎわいがあるエリアの、ちょうど真ん中近くに配置される。そのため、新・旧の市街のにぎわいをつなげていく市庁舎というコンセプトを考え、設計に生かした。敷地内にはこの地の歴史を継承する広場をつくり、広場に面した低層階には窓口の待合スペースやテラスを持つ多目的スペース・食堂など、用事の前後、あるいは用事がなくても市民がここで自由に過ごせる空間を整備した。RC(鉄筋コンクリート)フレームとCLT(直交集成板)パネルが特徴的な高層部分は、市庁舎のシンボルとして環境性能・防災性能を『見える化』する」という。市庁舎の正面玄関前の広場ではさまざまなイベントが行われ、にぎわいも生まれつつある。長崎市内を一望できる19階の展望フロアも新たな観光スポットになっている。
市民や観光客が集まるこの市庁舎は、災害時の対応拠点としての強じん性を備えており、それが市民の安心につながるだろう。その安心をコージェネが支えているという意味でも好事例になっている。
【コージェネ特集2024】導入事例(2)
●大型・高効率機に更新、EMS併用で省エネ効果向上/ジェイテクト岡崎工場
ジェイテクトは2021年に、岡崎工場(愛知県岡崎市)の出力4900㌔㍗の既設ガスエンジンコージェネレーションシステムを7500㌔㍗の高効率機(川崎重工業製)に更新するとともに、エネルギー管理システム(EMS)も導入し、省エネルギー効果を高めた。更新したコージェネは停電対応型とし、BCP(事業継続計画)強化も図った。東邦ガスエンジニアリングによる15年間のエネルギーサービスで導入し、イニシャルコストを抑えた。
岡崎工場では、オイルポンプやプロペラシャフトなどの自動車部品や工作機械を生産している。特徴は、溶解炉を3基持ち、アルミや鉄を溶かして成形する鋳造から部品製造まで一貫して手掛けていること。この溶解炉で大量の電気を消費している。同工場の全電力消費量のうち鋳造工程で約5割を消費している。
低炭素化への世界的な動きが加速する中、ジェイテクトも省エネの取り組みを強化している。その一環として大型の高効率最新鋭コージェネを採用し、更新前よりも省エネ効果を高めた。溶解炉稼働時の同工場の消費電力の約8割をコージェネで賄える。
更新前は、工場内の余剰蒸気を排熱投入型吸収冷温水機(ジェネリンク)に投入して空調用の冷温水を作っていたが、蒸気は工場内の他の用途でも大量に使用するため、ジェネリンクへの充当量は少なく、都市ガスで追いだきしていた。今回、コージェネの出力増強により、排熱量も増えた。余剰蒸気だけでなく、コージェネからの排熱(温水)もジェネリンクに投入し、追いだき用のガス使用量を抑えるようにした。コージェネの排ガスで作った蒸気は、水分を含んだ油分を濃縮する廃液濃縮装置や汚泥を乾燥させる装置などで活用している。
レジリエンス強化も図った。従来のコージェネは停電時に稼働できなかったが、今回の更新で停電対応型にした。
同工場製造技術部設備管理課の杉本亘グループリーダー(GL)は、「災害で工場への送電網に被害があった場合、生産活動に影響が及ぶ。そうした事態を回避するためコージェネを大型化・高効率化するとともに、停電対応型にした」と話す。
停電時は移動電源車(軽油燃料)からの電気でコージェネを起動できる。発災時に同工場のほか、周辺の自社工場や他社にも移動して電力供給できるよう移動電源車をそろえた。
更新にあわせてEMSを導入した。同課の赤川仁志氏は、「工場内の生産ラインの稼働状況に応じて高効率エアーコンプレッサーを優先的に稼働させる台数制御や、必要なエアーの量に応じてコンプレッサーを稼働させるインバーター制御、生産ラインごとに最適な圧力のエアーを送る圧力制御を実施。工場全体でエアーの最適化を図り、省エネ効果を高めた」と語る。
「従来はエアーを最も使う生産ラインで必要とする圧力に設定し、同じ圧力で工場内の各所に送気していたので、圧力が過剰だった所もあった。EMSを導入し、各ラインで圧力制御(エアーバルブの自動開閉)をできるようにして無駄なエネルギー消費を削減した」(杉本GL)。
コージェネ更新とEMS導入によるコスト削減効果について、製造技術部の吉田健二主任プロフェッショナルは、「単純比較は難しいが、当社内でベンチマークとしている工場に対し、コージェネ更新・EMS導入前と比べてエネルギーコスト削減効果は1・6倍になった」と語る。二酸化炭素排出量は、更新前の17年度と比べ、22年度は4割削減できたとしている。
コージェネから系統電力への逆潮は行っていないが、コージェネの発電出力を増強したことで自家発電比率を高め、調整力公募への対応を可能とした。夏季の夕方3時間など、下げDR(デマンドレスポンス)を実施し、電力需給ひっ迫の緩和にも貢献している。
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◆【民生用部門】水素利用システムを導入/清水建設
清水建設は、老朽化した北陸支店(金沢市)を建て替え、2021年から新社屋で業務を行っている。各種省エネ技術を採用し、建物の一次エネルギー消費量を基準値の28%まで低減した一方、再生可能エネルギー由来の水素を活用するシステムを導入し、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)を実現した。
新社屋は、地下1階・地上3階建て、延べ床面積は約4200平方㍍。特徴は、将来の水素社会の実現を見据え、CO2(二酸化炭素)フリー水素エネルギー利用システム「HydroQ―BiC(ハイドロキュービック)」を実装したこと。これは水素を活用した蓄電システムで、同社が産業技術総合研究所と共同開発した。電気・熱の最適マネジメントを実現する。
システムには、水素製造装置(毎時10ノルマル立方㍍)と水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵装置(1350ノルマル立方㍍、2千㌔㍗時相当)、発電出力100㌔㍗の純水素型燃料電池システム「H2Rex」(東芝エネルギーシステムズ製)、リチウムイオン蓄電池(100㌔㍗時)、太陽光発電設備(140㌔㍗)を組み入れた。社屋内の電力需要が少ない時間帯に太陽光発電の余剰電力を用いて水を電気分解し、水素を製造・貯蔵する。電力需要量が増える季節や時間帯に合わせて、貯蔵水素を用いて「H2Rex」で発電。従来は難しかったエネルギーのシーズンシフトを実現した。発電時の排熱は給湯設備や空調温水の予熱に利用し、システム総合効率を約60%まで高めた。
22年度実績では、太陽光発電による発電量の約80%を新社屋で直接利用したが、約20%が余剰になった。その余剰電力は、30%を水素製造に充て、20%を蓄電池にためて、約50%を売電した。
災害時のBCP(事業継続計画)強化も実現。災害による停電時は、太陽光発電による電力の直接利用を優先する。太陽光の電力だけでは足りない場合は、水素を活用して発電するほか、蓄電池から放電する。これらで、災害対策室、照明、給水ポンプ、情報機器で使う電気を賄う。
◆【産業用部門】工場間熱融通でCO2削減/信越化学工業
信越化学工業群馬事業所(群馬県安中市)は、磯部工場、松井田工場、横野平分工場、郷原分工場の4工場で構成される。同社は、電力安定供給と製品の安定生産、二酸化炭素(CO2)排出量削減を目的として、磯部工場と松井田工場にガスタービンコージェネを増設した。両工場を隔てる公道下に共同溝(蒸気配管)を敷設し、磯部工場の蒸気を松井田工場に供給し、2工場で熱を有効活用する仕組みを構築した。
磯部工場では電気を大量消費する半導体シリコンウエハや有機材料などを製造しており、熱電比は小さい。一方、松井田工場は製品構成の違いから熱電比が大きい。同社は、磯部工場に7910㌔㍗×2基、松井田工場に7890㌔㍗×1基のガスタービンコージェネを導入。両工場間に1・3㌔㍍の共同溝(2㍍×2㍍)も設け、蒸気配管を敷設した。磯部工場の蒸気を松井田工場に融通する仕組みを構築し、熱を面的利用することで熱電バランスの最適化と省エネを実現した。共同溝内には光ケーブルも敷設し、機器の運転状況や熱電バランスを一括監視するなど、両工場を一体運営している。
都市ガスは高圧(2・6メガパスカル)で供給を受けられるようにし、ガス圧縮機の追加設置を不要にした。既設ガスタービンも含め、合計千㌔㍗分のガス圧縮機動力を削減できたとしている。
コージェネを増設したことで、従来と比べ、エネルギー使用量を28・2%削減でき、CO2排出量を年間約2万4千㌧削減できる見込みとしている。2026年4月からは、コージェネの発電余剰電力を横野平分工場、郷原分工場に自己託送する予定。これが実現すると、群馬事業所4工場の電力自給率は従来の51%から100%になる見込みとしている。
さらに、保安防災機能の強化を図るため、増設したコージェネを、災害などによる停電時に起動するブラックアウトスタート(BOS)仕様とすることも計画している。
◆【技術開発部門】ドライ式水素専焼コージェネ/川崎重工業
川崎重工業は、ドライ方式による水素専焼1800㌔㍗級ガスタービンコージェネレーションシステム「PUC17MMX」を開発した。ガスタービンの燃焼器内に水や蒸気を噴射せずに高効率発電を可能とするドライ方式による水素専焼ガスタービンコージェネの製品化は世界初。
水素は、燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないが、天然ガスに比べて燃焼速度が速く、燃焼温度が高いため、燃焼器の部品が過熱しやすい。また、燃焼時に窒素酸化物(NOχ)排出量が増加することも課題だった。このため燃焼器内に水や蒸気を噴射して局所的高温とNOχ発生を抑えるウェット方式が実用化されているが、発電効率が低下する欠点があった。
同社は、マイクロミックス燃焼器(MMX燃焼器)と追いだき燃焼を組み合わせた独自の燃焼技術により、これらの課題を解決した。MMX燃焼器は、直径1㍉以下の多数の微小噴射孔から燃料を噴射する。微小火炎を作ることで局所的な高温部分が生じることを解消。MMX燃焼の下流で水素を追加投入することで、安定燃焼・安定出力を維持しながらNOχ排出量を抑える。この追いだき燃料の調整により、MMX燃焼を安定させた状態で出力を柔軟に変更できる。
水素専焼だけでなく、水素と天然ガスの混焼運転にも対応が可能。体積比で水素を50~100%の割合で混焼でき、安定燃焼を実現する。例えば水素の価格が十分に下がるまでの過渡期は混焼運転、低廉水素が大量導入された際に専焼運転とするなどの活用ができる。
PUC17MMXは、商用電源+ガスだきボイラーと比べ、水素50%混焼時は年間4300㌧、水素専焼時は同1万2900㌧のCO2削減が可能としている。また、既納の約60台のPUC17ガスタービンを全て水素専焼に改造した場合、CO2削減量は合計で同77万㌧に及ぶと見込む。
同社は水素燃料ガスタービン技術の開発を進め、MMX燃焼器を、自社の他のガスタービンに対して順次適用していく方針。2030年までに全機種に展開することを計画している。